民法改正が不動産売買に与える大きな影響とは?!<Part2>民法改正後の不動産売買契約における8つの注意ポイント
令和2年(2020年)4月1日に民法が改正されます。
120年ぶりに改正される民法改正は
不動産売買にも大きな影響を与えることになります。
新民法の最大の改正点は、
売主の瑕疵担保責任が廃止され、
新たに「契約不適合責任」が創設されたことです。
売主様には、責任が重くなる「契約不適合責任」について
特に理解して欲しいと思うのです。
そこで今日のブログでは
「民法改正後の不動産売買契約における8つの注意ポイント」について
書いてみたいと思います。
昨日のブログ<Part1>と一緒に読んでいただければ理解も深まると思います。
このブログを参考に、
民法改正が売主様に与える影響をしっかりと理解し
準備していただくことで、改正後の契約で慌てることなく
不動産売却を確実に進めて欲しいと思います。
1.契約不適合責任の通知期間を設定しましょう
新民法では、契約不適合責任の「通知期間」を設定することになります。
通知期間は、旧民法でいうところの瑕疵担保責任の「責任期間」に相当します。
新民法では、契約不適合責任の適用期間について以下のように定めています。
【目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限】
<新民法第566条>
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
新民法の条文は、そのまま適用すると
売却後、買主は不適合を知ったときから1年以内に売主に通知すれば
追完請求等をすることが可能と言うことです。
そのため、買主が通知できる期間を制限しない限り、
売主は長期間に渡って契約不適合の責任を負うことになります。
そこで、新民法以降の売買契約書では、
売買契約書において契約不適合責任の通知期間を任意で決めることになります。
この通知期間に関しては、恐らく3ヶ月が主流になると思います。
その理由は、旧民法下の売買契約においても
売主が負う瑕疵担保責任の期間は3ヶ月が一般的だったからです。
契約不適合責任は任意規定ですので、
買主が了解すれば自由に通知期間を定めることができます。
尚、仮に通知期間を設定しなかった場合、
買主が権利を行使できる期間は時効により10年で失効します。
また、契約不適合を知ってから1年以内に売主に通知しても、
その権利を知ったときから5年以内に行使しなければ、
やはり時効によって権利は失効されます。
そのため、通知期間を設定しなくても、
売主は長期間とは言え永久に契約不適合責任を負うわけではありません。
ただし、何もしなければ10年間は契約不適合責任を負うことになりますので、
売買契約時にはしっかりと通知期間を定めることをお勧めします。
2.契約不適合責任の免責部分は一つずつ明記!
新民法では、契約不適合責任の免責部分を一つずつ明記することが必要になります。
瑕疵担保責任では、
一切負わないという「全部免責」という便利な方法がありましたが、
新民法では、全部免責という方法には無理が生じます。
契約不適合責任を全部負わないということは、
売買契約書に記載されている全ての取決めに適合しなくても、
売主は責任を負わないということになってしまうからです。
売買契約書には
「所有権移転の時期」や「物件の引渡し時期」など、
いろいろな取り決めが約定にあります。
これらの約定には、売主の義務も含まれているのですが、
契約不適合責任を全部免責にしてしまうと、
その義務を履行しなくても責任を問えなくなるという矛盾が生じるのです。
そのため、新民法での不動産売買契約書では、
全部免責という方法ではなく、
免責したい部分を一つずつ契約書に明記することになります。
例えば、古い建物を売却する場合、
「耐震基準を満たさないことについて一切の責任を負わない」などと
明記することが必要なのです。
全部免責という表現が使えなくなると言うことは、実務上、大変なことになりそうです。
3.代金減額請求権の有無を確認しましょう!
個人が不動産を売却する場合、
売買契約書の代金減額請求権の定めの有無を確認するようにしてください。
契約不適合責任には、買主に代金減額請求権が認められていますが、
個人が売主となるような不動産売買では、
買主に代金減額請求権を与えないようにすることが一般的になります。
理由としては、
買主が代金減額請求権を安易に行使してしまうと、
契約の解除や損害賠償請求ができなくなるからです。
3,000万円で購入した物件を
「2,500万円にしてくれたら買いますよ」と言ったにも関わらず、
「やっぱり買いません」というのは成立しないということになります。
個人が売主の売買契約書では、
買主がうかつに代金減額請求をして、
後から損害賠償等ができなくなることを防ぐため、
代金減額請求権は設けないことになっています。
一方で、売主が不動産会社の場合には、
プロとしての判断が可能であるため
売買契約書の中に代金減額請求権は記載されます。
買主からすると、
個人が売主の物件では代金減額請求ができず、
不動産会社が売主の物件では代金減額請求ができるということになり、
しばらくは2本立てで運用されていきます。
4.付帯設備は契約不適合責任の対象外です!
新民法の不動産売買では、住宅の付帯設備は契約不適合責任の対象外になります。
中古住宅では住宅の付帯設備には
何らかの故障や不具合があることが一般的ですので、
設備まで厳密に契約不適合責任を適用させてしまうと
円滑な取引を阻害することになります。
旧民法下の不動産売買でも、
設備は瑕疵担保責任を負わないとする契約書が多くありました。
新民法においても
設備の契約不適合責任は負わないとする契約書が主流となります。
売主としては、
まずは設備の契約不適合責任がどのような取り決めとなっているのか、
売買契約書をしっかりと確認することが重要となります。
仮に、付帯設備についての契約不適合責任を免責する記載がない場合、
買主の了解を取って付帯設備の契約不適合責任を免責することをお勧めします。
ただし、設備の契約不適合責任の免責を有効とするためには、
売主が知っている設備の不具合について、
買主にしっかり告知しなければなりません。
新民法には、以下のような規定が設けられています。
<担保責任を負わない旨の特約>
(新民法第572条)
売主は、第五百六十二条第一項本文又は第五百六十五条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
※第562条1項:「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」
※第565条:「移転した権利が契約の内容に適合しないものであるとき」
旧民法でも、売主が知っていて告げなかった瑕疵については、
瑕疵担保責任を免れることができないという規定がありました。
契約不適合責任においても、
同様に売主が知っていて告げなかった故障や不具合については、
免責条項を設けても免責できないことになります。
そのため、売主は売買契約前に
設備の不具合等について買主にしっかりと告げることが必要なのです。
具体的には付帯設備表に設備の状況を記載することになります。
付帯設備表とは設備の撤去の有無や不具合状況を売主自身が書く書類です。
付帯設備表は不動産会社に売却を依頼すると、
不動産会社から記載を依頼される書類になります。
最終的には、買主へ引き渡す重要な書類です。
旧民法下では「全部免責」という便利な方法があったため、
付帯設備表を用いない売買契約も多くありました。
しかしながら、契約不適合責任では
契約物の内容を明らかにする必要があるため、
付帯設備表の重要性が一層増すことになります。
付帯設備表は不動産売買において必須の書類になっていきますので、
しっかりと記載するようにしてください。
5.心理的瑕疵・環境的瑕疵は告知書に明記!
民法改正後の不動産売買においても、
心理的瑕疵や環境的瑕疵は告知書に明記することが重要です!
心理的瑕疵とは、取引物件で過去に
自殺や殺人事件、火災、忌まわしい事件、事故などがあり、
心理的な面において住み心地の良さを欠く不具合のことです。
環境的瑕疵とは、
近隣からの騒音、振動、異臭、日照障害、
近くに反社会的組織事務所があり
安全で快適な生活が害される恐れが高いような不具合を指します。
心理的瑕疵や環境的瑕疵は、ともに法律用語ではなく、
不動産の取引で便宜上使われている言葉であることを付け加えます。
心理的瑕疵や環境的瑕疵は、
物件の不具合に該当するため、その不具合が原因となり契約が解除されたり
損害賠償が請求されることは新民法でも同じです。
例えば、
園芸を楽しむ目的で庭付き戸建て住宅を購入したのに、
後から南側隣接地にビルが建ち、
日照が阻害されてしまうようなケースは、環境的瑕疵に該当します。
環境的瑕疵が、
園芸を楽しむという契約の目的が達成されない事項に該当すれば、
契約の解除事由になるのです。
心理的瑕疵や環境的瑕疵は、
新民法においても契約解除や損害賠償の事由になり得ますので、
契約書にしっかりと明記する必要があります。
心理的瑕疵や環境的瑕疵に関しては、
告知書に記載する対応が必要となり、
付帯設備以外の瑕疵に関して売主が記載する書類となります。
告知書についても、
付帯設備表と同様に不動産会社から記載を依頼される書類になります。
告知書も、最終的に買主へ引き渡す重要な書類です。
契約不適合責任においても同様に、
売主が知っていて告げなかった心理的瑕疵や環境的瑕疵については、
免責条項を設けても免責できないことになります。
新民法においては告知書も、
一層重要な書類となっていきますので、
しっかりと記載するようにしてください。
6.物理的瑕疵はインスペクションで明確に!
物理的瑕疵は、これまでと同様にインスペクション(建物状況調査)で対応していくことが望ましいでしょう。
物理的瑕疵とは、建物の雨漏りやシロアリによる木部の腐食、家の傾き等を指します。
物理的瑕疵も法律用語ではなく、不動産取引に便宜上用いられる一般用語です。
インスペクションとは、
主に柱や基礎、壁、屋根などの構造耐力上主要な部分や、
外壁や開口部などの雨水の浸入を防止する部分について、
専門家による目視や計測等の調査のことを指します。
インスペクションでは、
専門家によって建物を調査しますので、
どのような物理的瑕疵が潜んでいるのかが分かります。
契約不適合責任では、
売買契約の目的物の内容が明確になっていないと、
買主から何を請求されるのか分からないという不安定な状態になります。
インスペクションによって事前に対象物件の内容が明確になっていれば、
その事実を契約書に書き込めば良いので安心して売却することができるのです。
新民法でも、
インスペクションで契約書に明記すべき内容が分かりますので、
「安心して売却できる」という効果がますます注目されると思います。
7.容認事項は余談なく明記することが重要!
新民法では、売買契約書の「特約・容認事項」を余談なく明記することが重要です!
売買契約書には、定型的な約定事項の他、
個々の取引の条件に合わせて特約・容認事項が記載できる欄があります。
契約不適合責任では
「目的物が何で、どのような状態なのか」を明確にする必要があるため、
特約・容認事項の欄に、その詳細状況を明記することになります。
特約・容認事項の記載例としては以下の通りです。
【特約・容認事項】
買主は、下記の容認事項を確認・承諾の上、購入するものとし、下記事項について売主に対し、解除、損害賠償、修補、代金減額請求等の一切の法的請求を成しえないものとします。
<容認事項>
1.本物件の北側には高速道路があるため、振動、騒音、臭気等が発生します。
2.本物件は昭和56年5月31日以前に建築確認を取得した旧耐震基準時の建物ですので、 現在の耐震基準を満たしておりません。
3.本物件は、東側隣地の○○氏所有のブロック塀の一部が越境しています。
契約不適合責任では、
売買契約書に「明記されているか、明記されていないか」が重要となりますので、
特約・容認事項には免責したいことをしっかりと書き込むようにしてください。
8.改正民法を理解している不動産会社に依頼!
新民法下での不動産売却は、改正内容と任意条項をよく理解している不動産会社に依頼することが重要です。
今回の民法改正は不動産業界に大きな影響を与えることから、
業界団体を中心に不動産会社に対する研修やセミナーを頻繁に実施してくれました。
そのため、ほとんどの不動産会社が契約不適合責任に対する知識と準備ができています。
しかしながら、理解度には温度差があり、
残念ながら改正内容を十分に把握していない不動産会社も存在するでしょう。
理解が浅い不動産会社に依頼してしまうと、
契約書の記載内容に不備が残り、買主からの不要な請求を防ぎきれないでしょう。
令和2年(2020年)4月1日はもうすぐです!
今回<Part1> と 昨日<Part2> のブログをお読みいただき、
まずは基礎知識を持っていただきてから、不動産会社への相談に臨んでください。
昨日のブログはこちらから!
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