改正民法「契約不適合責任」で買主ができる5つの請求! 売主が不要な責任を負わないための対策!
改正民法「契約不適合責任」がスタートしました。
瑕疵担保責任から契約不適合責任に変わることで、
売主様の責任は、残念ながらさらに重くなり、
買主様は、より安心して購入ができる内容となっています。
売主様自身には「契約不適合責任」の趣旨を十分に理解していただき、
そのうえで不要な責任を回避するための対策法をお伝えしたいと思います。
契約不適合責任を分かりやすく説明します
契約不適合責任とは、「契約の内容に適合しない場合の売主の責任」の略です。契約不適合責任は、「種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないものがあるとき」に売主が責任を負い、買主が保護されるという制度です。
簡単に言うと、契約内容と異なるものを売却したときは、売主が約束違反(債務不履行)の責任を負うということです。
例えば、買主が雨漏りしていることを知っていて、契約内容に「この建物は雨漏りしています」という内容を明記していれば、売主は「契約不適合責任」は負うことはありません。
しかし、買主が雨漏りのことを知っていても、雨漏りのことを明記していない、あるいは雨漏りがないことが前提での契約書では、契約内容とは異なるものを売ったことになり、売主は「契約不適合責任」を負うことになるのです。
旧民法の「瑕疵担保責任」では、買主が責任を追及できる瑕疵は「隠れた瑕疵」でした。「隠れた瑕疵」とは、買主が通常の注意を払ったにも関わらず発見できなかった傷です。
ただ、実際には瑕疵担保責任を裁判で争っても「隠れていたかどうか」を立証するのは難しいという問題がありました。
改正民法の契約不適合責任では、「隠れていたかどうか」は問われません。争点になるのは契約書に「明記せれているかどうか」が問題になるのです。
分かりづらかった「瑕疵担保責任」よりも「契約不適合責任」は単純明確で、契約内容と異なるものを売却したときは、売主に責任を負ってもらう、と言う「約束違反(債務不履行)」に原因を位置付けたのです。
契約不適合責任で買主が請求できる5つの権利
売主が契約内容と異なるものを売却したときに、
「契約不適合責任」で買主が請求できる権利は
「追完請求」「代金減額請求」「催告解除」「無催告解除」「損害賠償請求」の5つになります。
追完請求を少し詳しく説明します
契約不適合責任では、買主は新たに「追完請求」ができるようになりました。「追完請求」は契約不適合責任で一番重要な請求権で、改めて完全な給付を請求することを意味しています。
種類や品質または数量が契約内容と異なっていれば、追完請求により「完全なものを求めることができる」と言うことで、例えば、10個の注文をしたのに、9個しか納品されていなかった場合、追完請求によってあと1個を要求できるという権利です。
しかし、不動産は、唯一無二の特定物ですので、工業製品のように「あと1つを追加」と言うように個数で調整ができません。
そのため、不動産に認められた追完請求は「修補請求(直してくださいという請求)」ということになります。
雨漏りしているのに雨漏りしていないという契約内容で売却した場合、買主は売主に対して「雨漏りを直してください」と請求ができるのです。
「直してください」という追完請求は、当たり前の請求だと思いますが、旧民法の瑕疵担保責任では、直してくださいと言う請求ができませんでした。
瑕疵担保責任では、まず「雨漏りを事前に知っていたのか、知らなかったのか」という点が争点となり修繕の要求ができませんでした。
契約不適合責任で追完請求権が認められたことで、買主は売主に対してストレートに修補請求ができるのです。
もう一つ重要なことがあります。
売主に特段の落ち度がなかったとしても、契約内容と異なるものを売ってしまうと追完請求を受けることになる、と言うことです。
追完請求には「売主の責めに帰すべき事由」は必要ないのです。
もしかすると、売主様のなかには「家を完璧に修繕しないと売却できないのでは?」と誤解する人もいるかもしれませんが、それは違います。
追完請求は、あくまでも契約内容と異なる場合に契約内容通りに直すということで、雨漏りがあったとしても、それを契約内容に明記し、買主が了解していれば修繕しなくても良いのです。
追完請求で売主様に理解して欲しいことは
◆完璧な状態で売る必要はありません
◆物件の状況を契約書に明記することが重要
◆「売主の責めに帰すべき事由」は不要
代金減額請求を少し詳しく説明します
契約不適合責任では、買主は「代金減額請求権」ができるようになりました。ただし、代金減額請求は追完請求の二次的な請求権になります。
改正民法が認めた代金減額請求権は、追完請求で修補請求をしても売主が修補してくれないとき、あるいは修補ができないときについて認められる権利です。
あくまでも追完請求がメインで、それが駄目な場合には代金減額請求ができることになるのです。
旧民法の瑕疵担保責任には、追完請求も代金減額請求もありませんでしたが、買主に新たな2つの請求権が加わったことで、売主の責任は格段に重くなったと言えます。
代金減額請求は、まず「買主が相当の期間を定めて追完請求の履行を催告をし、その期間内に追完の履行がないとき」に認められます。
直せるものであれば、まずは追完請求の催告を行い、それでも直してもらえないときにはじめて「できないのであれば代金を減額してください」と言えるのです。
ただし、直せないことが明らかなときは直ちに代金の減額請求ができることが規定されています。
代金減額請求権は「直せるものは催告が必要」「直せないもの等は催告が不要」という2段構えの請求権と言うことです。
ベースとなる追完請求が売主に責めに帰すべき事由は不要ですので、その代替となる代金減額請求も売主に落ち度がなかったとしても認められることになります。
代金減額請求で売主様に理解して欲しいことは
◆売主に責めに帰すべき事由は不要
◆追完請求の二次的請求権
◆2段構えの請求権
催告解除を少し詳しく説明します
契約不適合責任では、買主に「催告解除」を認めています。
催告解除は、追完請求や代金減額請求をしたにも関わらず、売主がそれに応じない場合に買主が催告して契約を解除できる権利です。
売主が追完請求に応じない場合には、買主は代金減額請求でも納得できない場合に「やっぱり購入を止めます」と言えるのが催告解除です。
つまり、売主が追完請求に応じない場合、買主は「代金減額請求」と「催告解除」の2つの選択肢を持っていることになります。
契約解除されてしまうと、契約はなかったものとなるため、売主は売買代金の返還が必要です。
売主が追完請求に応じない場合は代金減額では済まされず、契約解除もあり得るため、買主の追完請求はとても強い権利といえるのです。
ただし、売主の債務不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときはできないこととなっています。
また、催告解除についても、売主に責めに帰すべき事由は不要です。
催告解除で売主様に理解して欲しいことは
◆売主に責めに帰すべき事由は不要
◆追完請求に応じない場合、代金減額請求か催告解除の2択
◆売買代金全額返還
◆売主の債務不履行が契約及び社会通念に照らして軽微であるときはできない
無催告解除を少し詳しく説明します
契約不適合責任では、買主に「無催告解除」を認められています。
旧民法の瑕疵担保責任でも、契約の目的を達しないときは契約を解除できるという規定がありましが、無催告解除は、その権利を引き継いだものと言えます。
無催告解除は、契約不適合により「契約の目的を達しないとき」に限り行うことができます。
ただし、若干の不適合程度で契約の目的が達成できる場合には無催告解除は認められない、と言うことです。
損害賠償請求を少し詳しく説明します
契約不適合責任では、買主に「損害賠償請求」の権利を認めています。
旧民法でも買主は損害賠償請求ができましたが、瑕疵担保責任による損害賠償請求は、売主の無過失責任(故意、過失がなくても責任を負う)でした。
契約不適合責任では、売主に帰責事由がない限り、損害賠償は請求されないことになります。帰責事由とは「責められるべき理由や落ち度、過失」のことです。
また、瑕疵担保責任の損害賠償請求の範囲は「信頼利益」に限られましたが、契約不適合責任での範囲は「履行利益」も含まれます。
「信頼利益」とは、契約が不成立・無効になった場合に、それを有効であると信じたことによって被った損害です。例えば、不動産の売買契約が成立するのを見越して、建築用の資材を購入した費用や、登記費用などの契約締結のための準備費用が信頼利益となります。
「履行利益」とは、契約が履行されていれば債権者が得たであろう利益を失ったことでの損害です。例えば、転売利益や営業利益などが履行利益に該当します。もちろん信頼利益も含みます。
売主が賠償しなければならない損害の範囲は、瑕疵担保責任と比較して格段に広くなったと言うことです。
損害賠償請求売主様に理解して欲しいことは
◆損害賠償の範囲が大きくなった
◆履行利益は信頼利益よりも大きな範囲になる
◆信頼利益と履行利益の両方を賠償する
◆売主に帰責事由がない限り損害賠償は請求されない
まとめてみました!
契約不適合責任では、買主が「追完請求」「代金減額請求」「催告解除」「無催告解除」「損害賠償請求」の5つを請求できるようになり、売主の責任は一層重くなりました。
契約不適合責任で売主様が不要な責任を負わないためには、契約書に売却物件の内容が「明記されているかどうか」が非常に重要になります。
民法改正後の不動産売買でも、売却活動を始める前に売却する不動産の状況をしっかりと把握し、物件状況確認書に明記することが必要になってくるのです。
これから不動産の売却をお考えの売主様は、まずは、改正民法の「契約不適合責任」の内容をよく理解している不動産会社に依頼し、あなたに適したアドバイスを受けることが重要になるでしょう。
※次回のブログでは
売主様の「契約不適合責任」を免責(全部なし)にする特約の有効性
について書きたいと思っています。
是非、読んでいただきたいと思います。
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