「違約解除」と「合意解除」不動産会社の責任者にも認識間違いが多い不動産売買契約の「違約解除」
不動産の売買契約において、契約の解除についての項目として、
手付解除、契約違反による解除、融資利用の特約による解除、瑕疵担保責任による解除、引渡し前の滅失毀損による解除などがありますが、
手付解除期日を過ぎて、残代金決済日(所有権移転の日)までに「契約キャンセル」の申し出をしたら、全て「契約違反による解除(違約解除)」になる、と認識間違いをしているのです。
そこで今日は、「違約解除」と「合意解除」不動産会社の責任者にも認識間違いが多い不動産売買契約の「違約解除」について書いてみたいと思います。
違約していないお客様を「合意解除」ではく「違約解除」に誘導し、違約金の支払いが必要だと説明する不動産業者が少なくないのです。
筆、新築一戸建て購入応援「仲介手数料・無料・0円・ゼロ・サービス」の加古川の不動産売買専門会社、未来家不動産株式会社 代表 清水浩治
「契約違反による解除・違約金」の約定事項
1.売主、買主は、その相手方が本契約にかかる債務の履行を怠ったとき、その相手方に対し、書面により債務の履行を催告したうえで、本契約を解除して表記違約金(以下「違約金」という。)の支払いを請求することができます。
なお、違約金に関し、現に生じた損害額の多寡を問わず、相手方に違約金の増減を請求することができません。
2.違約金の支払い、清算は次のとおりおこないます。
(1)売主が違約した場合、売主は買主に対し、すみやかに受領済みの金員を無利息にて返還するとともに、違約金を支払います。
(2)買主が違約した場合、違約金が支払い済みの金員を上回るときは、買主は売主に対し、すみやかにその差額を支払い、支払い済みの金員が違約金を上回るときは、売主は買主に対し、受領済みの金員から違約金相当額を控除して、すみやかに残額を無利息にて返還します。
「契約違反による解除・違約金(違約解除)」について詳しく説明します
この条項は、
1.相手方に「債務の履行を怠る」契約違反があったとき、売買契約を解除できること
2.解除された場合には、当事者の合意によって定められた「違約金」を契約違反した相手方に請求できること
を定めた内容です。
それでは「債務の履行を怠る」契約違反とは、どのようなものでしょうか?
それには「三つの要件」が必要になります!
1.契約違反の事実があること
この条項では、解除の事由として
「その相手方が本契約にかかる債務の履行を怠ったとき」と定めています。
そのため「全ての義務違反が解除事由になる」と考える人がほとんどだと思います。
しかし、各約定事項の義務内容は千差万別で、解除事由になるのか、ならないのかと言う見方からすると、軽重があります。
例えば、残代金決済日(所有権移転の日)に
◆買主が、売買代金の支払いをしてくれない
◆売主が、引渡しに応じてくれない
◆売主が、抵当権等の抹消をしてくれない
◆売主が、所有権移転登記に応じてくれない
◆売主が、引渡し前の滅失毀損で修復してくれない
などは、契約内容の重要性から見て、原則、契約解除の事由になると考えられます。
その他の条項では、特に実損が出ればともかくとして、解除事由に成りえない場合もあることに注意しなければなりません。
2.契約違反が違法であること!「同時履行の関係」とは?
売主、または買主の一方が契約違反をしても、それが違法でなければ解除権は発生しません。
そこには「同時履行の関係」という原則があり、売主が不動産を引渡すのと、買主が代金を支払うのは、同時に行わなければならないのです。
また、売主の所有権移転登記申請と、買主の代金支払も、原則、同時履行の関係になります。
ですから、買主が代金の支払いを怠るという契約違反の事実があったとしても、売主が不動産の引渡し、所有権移転登記手続きを怠っていたら、この契約違反は、違法にはなりません。
別の例でご説明すると、
決済日(所有権移転の日)が到来する前に、買主から「この契約をキャンセルしたい」との申し出があったとしても、この段階では、まだ契約違反にはならないのです。
何故かと言うと、
決済日までは、残代金を支払わなくても契約の違反にはならない、と言う「期限の利益」というものがあるからです。
また、買主が「契約をキャンセルしたい」と申し出ても、決済日がまだ来ていないので、売主も物件の引渡しや所有権移転登記に応じる準備ができていなければ、同時履行の関係は成立しません。
契約違反になっていないものに、契約の履行を催告することはできないので、この「契約をキャンセルしたい」という契約違反は違法にならないのです。
逆の場合も同様です。
3.催告したこと「配達証明付き内容証明郵便」
催告とは、契約違約をした相手方に対して、相当な期間を定めて、契約の履行を促すことを言います。
相手方が契約に定める債務の履行を怠ったとき、その債務の履行を催告し、それでも履行してくれないときに契約違反が確定し、契約を解除して違約金の支払いを請求できるのです。
契約履行の催告は、通常「配達証明付き内容証明郵便」で、
例えば「代金を本書面到着後7日以内にお支払いください。お支払いただけないときは、右期間経過をもって、本契約を解除し、違約金を請求します。」という内容で通告することになります。
ですから、上記の「別の例でご説明すると」にあるように、
残代金決済日以前に「契約のキャンセル」を申し出たとしても、「期限の利益」により本当に残代金を支払わないのか、本当に契約をキャンセルするのかは、決済当日にならないと分からないことに対して、「契約の履行」は催告できないので、「契約違反による解除」はできないことになります。
では、この場合の契約解除は、どのようにすれば良いのでしょうか?
それが「合意解除」と言う方法での解除になります。
売主様、買主様の合意で解除 合意解除覚書(雛形)
違約解除など、原契約の約定事項の適用ができない場合は、「合意解除」という方法をとります。
売主様と買主様の合意に基ずく解除は、「契約違反による解除」条項は適用されません。
違約金を支払うのかどうか、また、その時期はいつまでか、等、何を決めても、売主様、買主様の合意によるのであれば、原則として解除の仕方は自由です。
その場合でも、もちろん不動産会社の担当者や責任者が間に入って打合せをしてくれますので、安心してください。
下に「合意解除覚書」の雛形を書きますが、そこには違約条項の内容は含まれていません。これが「合意解除」というものです。
合意解除覚書(雛形)
売主「〇〇 〇〇」と買主「〇〇 〇〇」とは、令和元年〇月〇日付で締結した末尾表示の不動産を目的とする売買契約(以下「原契約」という)の解除に関し次のとおり合意しました。
記
第1条:売主と買主は原契約を、令和元年〇月〇日付で合意解除します。
第2条:売主は前条の契約解除に伴い、原契約に基づき買主からすでに受領済の手付金、金1,000,000円のうちから、損害金、800,000円を取得し、これを差引いた残額、金200,000円を無利息で速やかに買主に返還し、買主はこれを受領しました。
第3条:売主と買主はこの合意をもって原契約解除による精算を完了し、他に債権債務のないこと、並びに将来本件に関し異議苦情等一切の請求をしないことを互いに確認しました。
この合意成立の証として本書2通を作成し、売主、買主署名押印の上、各自その1通を保有する。
まとまてみました!
「債務の履行を怠る」契約違反には、三つの要件が必要になります!
1.契約違反の事実があること
2.契約違反が違法であること
3.債務の履行を催告したこと
この要件を満たしていないのに、手付解除期日が過ぎれば、全て違約解除で処理してしまう不動産業者がいることも事実です。
合意解除の場合は、売主様と買主様の打合せの合意で解除になりますので、契約内容にこだわらず、解除条件を自由に決めることができることを知っていてください。
ただし、契約解除を申し出た当事者に非が有ることは間違いのない事実ですので、違法ではなくても、違約金を丸々請求されることは、致し方ないことだと思うべきかもしれませんね。
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