「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に!売主様にとって厳しい内容の120年ぶりの民法改正です!
不動産売買での売主様が負う「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に変わります!
120年ぶりの民法改正は売主様にとって厳しい内容になります!
そこで今日は、令和2年(2020年)の民法改正による不動産売買、そのなかでも売主様の「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」で変わる6つの変更点と、注意して欲しい5つの点ついて書いてみたいと思います。
少し長くなりますが、不動産の売却を検討中のあなたはには、是非、読んでいただきたい内容です。
明治時代の制定以来120年ぶりに改正された民法が、令和2年(2020年)4月1日から施行され、私たちの生活に対してはもちろん、不動産の売却にも大きな影響があります。
売主様にとっては、責任の範囲が広がり厳しい内容に、買主様にとっては、より安心して購入できるようになりそうです。
民法改正 瑕疵担保責任に関する6つの変更点
不動産売買に最も影響を与える変更点は「瑕疵担保責任」に関する条項が改正されたことです。
また、ここでは、瑕疵担保責任が契約不適合責任で変わる6つの変更点と、
手付金解除に関する1つの変更点の合計7つの変更点について書いてみたいと思います。
その前に、現行の瑕疵担保責任について、おさらいをしてみましょう。
現行の瑕疵担保責任についておさらいです
「瑕疵」とは、売買契約の目的物が、当たり前に持っている品質や性能を欠いていることをいいます。
不動産では、建物の雨漏りやシロアリによる床下の腐食、土壌汚染、過去にあった忌まわしい事件、近隣からの騒音・振動・異臭等が瑕疵に該当します。
この瑕疵のうち、買主が通常の注意を払っていたのにも関わらず発見できなかった瑕疵を「隠れた瑕疵」と呼びます。
瑕疵担保責任では、この「隠れた瑕疵」が対象となります。
現行の民法は、売却後、隠れた瑕疵が発見されたとき、買主が「瑕疵を発見してから1年間」は売主に対し損害賠償を、また契約の目的が達成できないときは、契約の解除を請求できます。
この買主を保護する売主の責任を「瑕疵担保責任」といいます。
瑕疵担保責任の規定は、原則を定めたものですので、契約当事者の合意があれば、原則を変更することができます。この規定を「任意規定」といいます。
民法の規定が、売主に重過ぎるため、個人間の不動産の売買契約では原則を変更して契約することが一般的です。
個人間の不動産売買での瑕疵担保責任
個人間の不動産売買では、売主が負う瑕疵担保期間を「引渡し後3ヶ月」に短縮することが多いです。
また、買主が合意すれば、売主の瑕疵担保責任を免責にすることもあります。
ただし、売主が宅地建物取引業者(不動産会社)の場合に期間は、引渡しから2年以上となっています。それよりも買主に不利な特約は無効とされ、民法の規定が適用されます。
通常の個人が戸建てやマンションを売却する場合には、瑕疵担保責任期間は「引渡後3ヶ月」または「免責」とすることで、売主の負担を軽減しています。
しかし、瑕疵担保責任を免責にしても、売主が瑕疵の存在を知っていて買主に告げなければ、売主は該当箇所の瑕疵について、その責任を免れることはできません。
それでは、新正民法の7つの改正点について、書いていきたいと思います。
1.瑕疵担保責任が、契約不適合責任へ
「瑕疵担保責任」という表現が「契約不適合責任」び変更されます。
現行民法は、明治時代に制定されたため「瑕疵(かし)」という意味が分かりづらく読みにくい表現でした。
改正民法では「契約不適合」という現代的な表現に変更されます。
現行民法の第570条では「瑕疵」の定義は定められていませんが、
改正民法では「契約の内容に適合しているかしていないか」が重要であることが明確になっています。
2.責任範囲が拡大 隠れていなくても対象です
現行民法では、売主は「隠れた瑕疵」に対して瑕疵担保責任を負う、と規定されています。「隠れた瑕疵」とは、買主が通常の注意をしていても発見できなかった瑕疵という意味です。
つまり、買主が契約時に分からなかった瑕疵のみが対象でしたが、改正民法では「隠れた瑕疵」という限定がなくなるのです。
隠れていても隠れていなくても、言い換えると、買主が知っていても知らなくても、契約内容に適合しているかしていないかが判断基準になるということです。
そのため、買主が知っていた瑕疵については責任を負わなくても良かったものが、売主は買主が契約時に知っていた瑕疵についても責任を負うことになるのです。
3.損害賠償請求の範囲が広がります
現行民法における瑕疵担保責任に基づく損害賠償の範囲は、その契約において瑕疵がないと信じたために発生した損害(主に実費など)に限られると考えられていました。
ところが、改正後は、その契約が完全に履行されていたら得られたであろう利益、たとえば、値上がりするこでの利益や転売することでの利益などに対しても損害賠償の範囲が広がります。
その他、契約不適合により補修工事が必要となり、引渡し時期が遅延し仮住まいが必要となった場合の費用なども損害賠償請求の対象になります。
次に、現行民法では、瑕疵担保責任において、売主は売主の故意・過失がなくてもその責任を負わなければならない(無過失責任)と定められています。
改正民法では「契約不適合があっても売主の責めに帰することができない事由の場合は、損害賠償請求をすることはできない」となります。
「売主の責めに帰すことができない事由」とは、「売主の責任ではないこと」という意味で、たとえば、地震で外壁にひびが入る、類焼により焼失してしまう、などがあります。
4.売主様の責任期間が延長されます
現行民法では、瑕疵担保責任の期間について「買主が瑕疵を知った時から1年間」と定められていました。
ところが、改正民法では、売主が瑕疵を知っていた場合や瑕疵を知らないことについて売主に重大な過失があった場合は、売主の責任期間が延長され、一般的な時効である5年となります。
たとえば、土壌汚染があることを売主自身の重大な過失により知らないまま土地を売却した場合、「買主は土壌汚染の事実を知った時から5年間、売主に対して責任を問うことができる」ということになります。
5.追完請求(修復請求)が新たに加わります
現行民法では、不動産に瑕疵があった場合に、買主の救済措置は「契約の解除」と「損害賠償請求」の2点でした。
改正民法では「追完請求(修復請求ともいう)」もできることとなりました。
追完請求とは、契約通りの物を請求することであり、引き渡した不動産に契約不適合な部分があったときは、売主に対して修理や補修の請求ができることになります。
例えば、雨漏りは無いという契約であったにも関わらず雨漏りが存在した場合など、契約に不適合な部分に対して修補請求が認められる、ということです。
現行民法の瑕疵担保責任では、補修請求は認めていません。
6.代金減額請求をすることができます
改正民法では、買主保護の措置として、上記の修復請求に加えて代金減額請求をすることも可能になります。
代金減額請求とは、売主が契約不適合部分について修復請求に応じない場合、売買代金の減額を要求できるということです。
これは、売主が追完請求を拒んでも、その次の手段として代金減額請求を受けることになるのです。代金減額請求に関しても、売主が無過失でも買主は請求が可能です。
ただし、追完請求および代金減額請求に関しては、買主の責めに帰すべき事由の場合(買主の故意・過失による場合)は、売主に対して請求することはできません。
手付解除の「履行に着手」の内容も変わります
今回の改正で、売買契約締結時の手付解約に関する内容も変わります。
手付解約とは「相手方が契約の履行に着手するまでは、売主は受領済の手付金の倍額を支払い、買主は支払済の手付金を放棄することによって契約を解除できる」という内容の規定です。
現行民法では、手付解除ができる期限は「当事者の一方が契約の履行に着手するまでは」と定められていましたが、改正民法では「当事者の一方が」が無くなり「相手方が契約の履行に着手するまで」と変更されます。
手付解約には「相手方がすでに契約の履行に着手していたら相手方に損害が発生するかもしれないので、自分からは契約解除できない」という意味が込められています。
しかし、「当事者の一方が」という表現が入っているので、「相手方が履行の着手していなくても、自分が着手していたら解約できないのか?」という疑義が生じていました。
改正民法では「相手方が」という表現になるので、「解約する側が履行の着手をしていても手付解約できる」ということが明確になります。
売却検討中のあなたに注意してほしい5つの点
ここでは、令和2年(2020年)に民法改正が迫る中で、不動産の売却を検討中のあなたに注意してほしい5つのべきポイントについて書いてみたいと思います。
上記に書いてきたことのおさらいになりますが、もし売却を検討中で、あなたの諸事情が合致するのであれば、早めの売却をお勧めする、という内容になっています。
1.「隠れた瑕疵」が無くなります
改正民法では、「隠れた瑕疵」という概念がなくなります。
これまでは、売主が告知することによって買主が知っていた瑕疵については、瑕疵担保責任を負わないことが一般的でした。
ところが、改正後は買主が知っている瑕疵についても、「契約不適合」として売主が責任を負うこととなりますので、注意が必要です。
2.売主の責任期間が延長になります
売主の契約不適合に対する責任期間が5年になります。
現行民法では「瑕疵を知った日から1年間」という規定ですので、買主保護のために売主の責任が強化されることとなります。
そのため、売主の責任期間が延長され、厳しくなる前に売却することもひとつの考え方かもしれませんね。
3.「契約不適合」部分の範囲が分からない
現行民法において、具体的に「瑕疵はこの部分!」という規定がありませんが、改正民法にも、具体的な規定がないのです。
そのため、現在の不動産売買契約では、個人間の場合、民法に対する特約として、主に「雨漏り」「シロアリの被害」「構造上重要な躯体部分の腐食」「給排水管の故障」という4点に瑕疵の範囲を定めています。
しかし、民法改正での「契約不適合」となる部分が、どのようになるのかが明確になっていません。
民法改正後の不動産売買において、ガイドラインやルール、解釈のあり方などが通達されるのだろうと思いますが、現時点ではその範囲が分からないのか実状です。
そのため、売主の責任の範囲が拡大され、厳しくなる前に売却することもひとつの考え方かもしれませんね。
4.買主が損害賠償請求できる範囲が広がります
改正後は、その契約が完全に履行されていた場合に得られたであろう利益や、履行されなかったことで生じた費用についても損害賠償の範囲が広がります。
このように、買主の大幅な権利強化が発生することになりますので、損害賠償請求の範囲については、十分な認識が必要になります。
そのため、売主の損害賠償責任の範囲が拡大され、厳しくなる前に売却することもひとつの考え方かもしれませんね。
5.民法改正による売主様の負担を避けるには?
令和2年(2020年)に施行される改正民法の、契約不適合責任は、現行民法の瑕疵担保責任と同じで原則ですので、売主、買主の合意で変更できる任意規定です。
そのため、双方合意で設定した責任免責などの特約条項が優先されます。
しかし、改正民法の契約不適合責任は、買主の保護や権利が強化されていて、売主に課せられる責任が重くなっていますので、安易な特約条項の設定は、売主が想定以上の責任を負うことになりかねないので、注意が必要です。
ですので、もし、あなたの事情が許すのであれば、民法改正前に不動産売却、引渡し完了を検討していただくことが、責任を少しでも軽くする方法ではないでしょうか。
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