成年後見制度・・・・認知症になった親の不動産を売却することはできないのですか?
認知症になった親の不動産を売却することはできないのですか?
最近、このご相談が増えてきたように思います。
日本は今、高齢者の4人に1人が認知症、あるいはその予備軍といわれていて、超高齢化社会の現在、ますます増加が予想されています。
それに伴い「認知症の親の不動産を売却して、介護費用に充てたい」と言うご相談が増えています。
認知症などで「意思能力」が無い人が、不動産の売買契約を締結したら、その契約は無効になりまが、「成年後見制度」を利用すれば不動産の売却が可能になるのです。
今日は、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」が施行され、利用しやすくなった「成年後見制度」を使って不動産を売却する方法について書きたいと思います。
認知症になってしまうと不動産の売却はできません!
認知症が進み重度の症状で、会話もできないような状態なら、不動産の売買はできない、と言うことは容易に想像がつくと思います。
そこで疑問になるのが、
認知症の症状が軽度なら、不動産を売ることができるのか?
委任状を書いて「代理人」を立てれば売却できるのでは?
ということではないでしょうか。
その疑問に答える前に、認知症と不動産の売買契約、代理人について書きます。
「意思能力」がなければ売買契約は無効になります!
認知症で「意思能力」が無くなっている場合、何故、不動産は売却できないのでしょうか?
「意思能力」とは、自分の行為が、どのような法律的な結果を生じるか、その判断できる能力のことです。
不動産の売買では、「不動産を売却したら売買代金を受け取り、その代わりに、所有権が買主に移転する」という法律的結果を本人が正確に認識できないのであれば、不動産を売却することはできない、と言うことです。
しかし、認知症でも症状は様々です。認知症の疑いがあっても「意思能力」があると判断されたら、不動産を売却できる可能性もあります。
委任状による所有者の「代理」で売却できる場合とは
怪我などで入院していて、本人が不動産会社に行くことができなくても、意思能力に問題が無ければ売却は可能です。
この場合は、委任状を作成して子供などが「代理人」になって、売却の手続きを進めることができます。
しかし、本人の認知症の症状が重度であった場合は、委任状を準備しても、代理人が不動産を売却することはできません。
代理人を選定するには「この人を代理人に任命する」という意思を示せる状態であることが必要ですが、認知症で「意思能力」が無ければ、法的に有効な代理人を立てることができないからです。
そこで、認知症の人が所有不動産を売却するために利用できる制度が、「成年後見制度」です。詳しく見ていきましょう。
成年後見制度とは? その仕組み
成年後見制度は、
認知症や知的障害などで、意思能力が十分でない人に代わって、成年後見人が売買契約や、財産の管理などを行い、本人を支援する制度です。
成年後見人は、本人の代わりに契約を締結するだけでなく、例えば、本人が不必要なリフォームなどの不利益な契約を結んでしまった場合、取り消すこともできます。
成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。
認知症によって、すでに意志能力が十分でなくなっている場合には「法定後見制度」を、意志能力が十分なうちに、本人が将来のために支援者を選んでおくのが「任意後見制度」です。
さらに、法定後見制度には「後見」「補佐」「補助」の3種類があり、それぞれに与えられる権限は、本人の判断能力に応じて異なります。
後見:判断能力が全くない人を保護する
補佐:判断能力が著しく不十分な人を保護する
補助:判断能力が不十分な人を保護する
法定後見人になれる人とは?
法定後見人になれる人は、親族、弁護士、司法書士、社会福祉士、福祉関係の法人などです。未成年者や破産者、本人に対して訴訟をした人などは後見人になれません。
法定後見制度の大きな特徴は、裁判所が法定後見人を選ぶという点です。
親族を法定後見人の候補にすることはできますが、家庭裁判所がその人を選ぶとは限りません。後見人になることを希望していた親族が選ばれなかったとしても、不服申し立てはできません。
家庭裁判所が後見人を選任するときには、後見人の職業、経歴、本人との利害関係、その他の事情を考慮し、後見人として最もふさわしい人が選ばれます。
また、法定後見人は複数の人が選ばれる場合もあります。必要に応じて、成年後見人を監督する「成年後見監督人」が選ばれる場合もあります。
法定後見人ができることとは?
法定後見人は、本人の代わりに財産管理や契約などの法律行為を行います。
法定後見人が本人のために契約行為を行うと、所有者本人が契約を行った場合と同じ効力が発生します。
ただし、法定後見人になったら、本人の代わりに何でもできるわけではありません。一言でいうと、後見人ができるのは「本人の利益になること」だけです。
不動産の売却については、本人のために必要性があれば売却できます。
例えば、売却代金を生活費や医療費に充てたり、介護施設への入居費用に使う、などの場合は、認められる可能性が高いでしょう。
建物が老朽化し、維持していると経費がかさむ場合にも正当理由になるでしょう。
一方で、成年後見人が自分の事業のために売却代金を利用するのであれば許されません。
また、使い道だけでなく売買金額についても注意が必要です。
一般的な市場価格よりも安く売ってしまうなど、本人に不利なことはできません。
なお、居住用の不動産を売却する場合は、本人にとって重要な財産であることから、家庭裁判所の売却許可が必要です。
裁判所の許可を得ないで居住用不動産の売買契約は無効になります。
居住用不動産には、認知症の本人が現在居住している家だけでなく、病院から退院後に住む予定の家も含まれますので注意をしてください。
成年後見制度、成年”被”後見人のデメリット
成年後見制度で「成年被後見人」の審判を受けた人には、大きく2つのデメリットがあります。それを知った上で利用を検討してください!
ひとつめは、相続税対策のための生前贈与ができなくなります。
贈与には贈与税が課税されますが、贈与税には年間110万円の基礎控除や、相続時精算課税制度、配偶者の税額軽減など贈与税を低く抑えることができる制度が複数あります。
これらを効率的に利用することで、贈与税を最小限に抑えつつ、相続税を効率的に節税することができます。
しかし、贈与は本人の財産を減らす行為ですので、贈与税や相続税を節税できたとしても本人の得になるとは言えないのです。
成年後見制度の主旨は、本人を保護するための制度なので、財産を減らしてしまう贈与が許される可能性は極めて低いということです。
ふたつめは、成年後見開始の審判を受けた「成年被後見人」は、株式会社の取締役や役員になれないことです。
そもそも自分の財産が管理できない状態ですから、会社の運営を任せられるはずもないのですが、同族会社など家族で会社を経営しているような場合は、名前だけ取締役になっている人も多いと思います。
もしも、会社の取締役が「成年被後見人」になった場合は、取締役の欠格事由に該当するため直ちに役員変更を行い、退任することになるのです。
他にも、印鑑登録や生命保険契約ができない、選挙権がなくなる、養子縁組ができない、就けない職業があるなどのデメリットがありますので、「成年被後見人」になる前に、できないことや問題点をしっかり見据えて対策をしてください。
成年後見人には報酬が発生します!
成年後見人には、成年被後見人の財産から一定の報酬を支払うことになります。
もちろん、親族が成年後見人に選任されて、報酬の請求をしなければ費用は発生しませんが、成年後見人の仕事は、決して楽なものではないので、例えば、弁護士などの専門家が選任されると、毎月一定の報酬を支払うことになります。
なお、成年後見人の報酬については、家庭裁判所の審判によって決められますので、当事者間で別途話し合う必要な無いのですが、目安としての基本報酬は、管理財産の総額によっても異なりますが月額2万円~6万円で、また、特別に困難な事情があった場合は付加報酬が認められる場合もあります。
いずれにしても、専門家が成年後見人に選任されると、毎月数万円の費用がかかることになり、ご家庭によっては、これだけでも大きな負担となります。
お伝えしたいことが、まだまだありますので、次回のブログもご覧ください!
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