手付解除の意味と手付解除期日の決め方
手付解除は、手付解除期日までであれば、売主も買主も互いに書面により通知して契約の解除ができる、と言う解除権のことです。
そこで今日は、民法で定められている「手付解除」と民法に対する特約として行われている「手付解除期日」について書いてみたいと思います。
この「手付解除期日」は、売主様と買主様との合意で決めるものなのですが、不動産業者の都合で勝手に決めているケースが少なくないので、特に注意をして欲しいと思います。
手付解除と手付解除期日の関係
手付解除は、
売主と買主の合意で決めた手付解除期日までであれば、解除理由が何であれ
買主は手付金を放棄して、売主は手付金の倍額を現に支払えば
契約を解除することができる解除権のことです。
そして、解除された相手方は、
解除理由に対して異議を申立てることができないのです。
「解除理由が何であれ」と言うことは、
極端な理由を挙げると
「単に契約を続けることが嫌になった」
「相手方がやっぱり気に入らない」などの理由であっても
解除ができる、と言うことです。
民法での手付解除期日
民法は、手付解除期日を「相手方が契約の履行に着手するまで」と定めています。
そして、「履行の着手」については、
判例で「民法第557条第1項にいう履行の着手とは、債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし、又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指す(最高裁昭和40年11月24日判決)」
と説明しています。
民法の手付解除は不安定な状態
理由が何であれ解除ができる手付解除制度ですので、相手方からみれば、いつ解除されるか分からないことになり、契約的にも法律的に不安定な立場に立たされています。
この不安定な立場を安定させるために、いつの時点までであれば契約解除が可能なのかを明確にしなければなりません。
そのために、手付解除期日を設けるようになったのです。
民法の解釈は難し過ぎて揉めてしまいそう
民法や最高裁判決の内容は、難し過ぎて、いったいいつが履行の着手なのかが分かり辛いですね。
手付解除で売買契約が解除されることになると、解除したい側と解除される側では、その時点では「解除がしたい」「解除されてたくない」と言う相反する意思が働き、履行の着手について判断や解釈の違いで大きなトラブルに発展し、なかなか解除ができない状態が続くことになるのです。
大きなトラブルの事例ですが、中古住宅を売って新築一戸建てに買い換える、と言った契約が連動しているケースです。
中古住宅の買主が「売主がまだ契約の履行に着手していない」ことを理由に手付解除を申し出ました。
売主は「次の引っ越し準備を進めているから履行に着手している」と主張し買主の手付解除を拒否しました。
この「履行に着手」に対して双方が異議も持ち、契約が解除もされず、進めることもできず、不安定な状態が続きトラブルに発展したのです。
手付解除期日を決めるようになった切っ掛け
上記のようなトラブルに発展してしまいそうな不安定な契約は、一般消費者には酷な状況ですので、取引の安定を図るため、売主が一般の人の場合は、民法の手付解除期限「相手方が契約の履行に着手するまで」に対する特約として「手付解除期日」を当事者の合意により定めるようになったのです。
私たち宅建業者(不動産業者)は、この「手付解除期日」は民法に対する特約であること売主様、買主様双方に十分に説明して、「手付解除期日」の決め方をアドバイスする役目を担っているのです。
なかには、不動産業者が勝手に、それも不動産業者の都合で決めているケースも少なくないので、注意が必要です。
手付解除期日の決め方(目安)
手付解除期日を決めるときは、売買契約締結から残代金決済日に至るまでの過程を十分に考えて、売主様と買主様の合意で決めなければなりません。
標準的な手付解除期日に目安は、
◆契約から決済までの期間が1カ月以内であれば、残代金支払日の1週間から10日前くらいに設定、
◆契約から決済までの期間が1カ月以上の場合は、契約日から決済日の中間くらいで設定、
◆買主様が住宅ローンを利用する場合は、金融機関の融資承認がでるのに十分な期間を定めた「融資利用による契約解除期日」の翌日以降で
決めるようにしています。
これは、あくまでも目安ですので、各契約内容により十分に配慮して決めなければなりません。
なかには、売主と買主に説明せず、不動産業者が勝手に、それも不動産業者の都合で決めているケースも少なくないので、注意が必要です。
もし勝手に決められている場合は、なぜ「その日で決めたのか?」の説明を受け、納得ができれば、その日で進めてもいいと思いますが、納得できない場合は、もう一度決め直してください。
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