不動産売買で「手付解除」をめぐるトラブル
不動産の売買では、契約締結時に買主から売主に対して手付金の支払いがあります。
売買契約後は、売主も買主も契約内容で約束した手続きを行い、無事に残代金の支払いや物件の引渡しが完了すれば、手付金や手付解除が問題になることはありません。
しかし、契約締結から物件の引渡しまでの間で相手方が「この契約を解除したい」と申し出てきた場合は、この手付金が重要になってきます。
そこで今日は、「不動産売買で「手付解除」をめぐるトラブル」について書いてみたいと思います。
筆、新築一戸建て購入応援「仲介手数料・無料・0円・ゼロ・サービス」の加古川の不動産売買専門店 未来家不動産株式会社 代表 清水浩治
「手付解除」をめぐるトラブル事例
売主「K様」は所有している土地を、新居建築希望の買主「S様」と売買契約を締結しました。
売買代金は3,000万円で、手付金として契約締結時に買主から売主に300万円の支払いがあり、残代金の支払期日と土地の引渡し日は、いずれも売買契約締結から3ヵ月後に定められました。
今回売却する土地には、賃借人一人が居住中の建物が建っていたのですが、その賃借人の退去と建物解体、及び滅失登記完了後の引渡しが条件となっています。
売主「K様」は、土地を引渡すために、売買契約締結後すぐに賃借人に立退料50万円を支払うことを条件に賃貸借契約を合意解約し建物を明け渡してもらいました。
そして、土地の引渡し期日の1ヵ月前に建物の解体作業に着工したのですが、買主「S様」から「新居建築のためにもっといい土地を見つけたので、手付金300万円は放棄し契約を解除したい」と申出がありました。
買主の申し出通りにこの売買契約は解除されてしまうのでしょうか。
手付金について
手付金は、売買契約締結時に授受され、残代金支払い時に売買代金の一部に充当されることになります。
手付金の額は、売買代金の5%から10%の金額が授受されるのが一般的です。
手付金には、
売買契約が成立したことの証拠という意味で交付される「証約手付」と
当事者の一方の意思だけで契約解除ができる「解約手付」の意味があります。
他にも「違約手付」や「損害賠償の予定」と言う意味もありますが、今回は説明を省略します。
トラブル事例で問題になった「解約手付」
解約手付は、
「相手方が契約の履行に着手するまで」であれば
買主が契約を解除したい場合には手付金を放棄し、
売主が契約を解除したい場合には、
買主から受領した手付金を返還し、さらに買主から受領した手付金と同額の金銭を買主に支払うことで契約を解除できます。
一般的には「手付放棄」「手付倍返し」と言われています。
トラブルになった事例では
買主は手付金300万円を放棄することで契約を解除できることができるのでしょうか。
「相手方が履行に着手」するまでは解除できる
解約手付で契約している場合は、どんな理由であっても契約を解除することができます。
また、解約される側は、その理由に異議を申し立てることもできないのです。
トラブル事例の買主は「他に良い土地が見つかった」という理由で契約解除の申し出をしていますが、
極端ですが「やっぱり気が進まない!」と言った理由でも契約を解除することができ、売主は「そんな理由で解除するなんて許さない」などの異議は言えないのです。
しかし、どんな理由でも契約を解除できるのであれば、
当事者としては引渡し(決済)へ向けての準備が無駄になるなど、不安定な状態が続くことになってしまいます。
また、実際に準備を進めているのに解約手付により解除されてしまうと、その準備に費やした費用が無駄になってしまいます。
このように、引渡し(決済)に向けて準備を進めてきた当事者を保護するために、解約手付による解除は、相手方が「契約の履行に着手するまで」に行わなければならず、それ以降は、解約手付による解除は認められません。
「履行に着手」とは?
「履行に着手」とは、前記の通り、
引渡し(決済)に向けての準備を行った当事者の期待を保護するという目的から考えて、「客観的に外部から認識できるような形で履行行為の一部をなし、又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合」には「履行に着手」したといえるとされています。
そして、当事者の行為が「履行に着手」した行為に該当するかどうかは、実際に行った行為や債務の内容、決済の時期が定められた目的などを考慮すべきとされています。
「履行に着手」に該当するかどうかは、契約を解除したい側と契約を進めたい側の相反する意思が働きますので、必ずと言っていいほど揉めます。
裁判事案でも、同じような行為を行っているのに、契約内容や決済時期、行った行為の内容などから、方や「履行に着手」が認められ、方や認められないなどの事例があるほどで、個別具体的な状況の判断が必要になるのです。
トラブル事例の場合
トラブル事例では、
買主「S様」は300万円を放棄して契約を解除したいと申し出ています。
それでは、売主「K様」は「履行に着手」したと判断できるのでしょうか?
今回売却する土地には、
賃借人一人が居住中の建物が建っていて、その賃借人の退去と建物解体、滅失登記完了後の引渡しが条件になっています。
つまり、売主が土地を引渡すためには、まずは賃借人に退去してもらい、建物を解体すことが必要になります。
そして売主は、賃借人に立退き料として既に50万円を支払って、建物の明け渡しを受けています。
このことから売主は、契約を履行するための不可欠な行為を行ったと言えるでしょう。
また、建物解体工事の着工も、決済日から1ヵ月前ということで、この点も引渡し(決済)の準備のための行為であると言えるのではないでしょうか。
トラブルを未然に防ぐために
「履行に着手」は、当事者間の相反する意思が働き、個別具体的な事情によって判断が分かれるので、その判断を巡って争いになる可能性もあります。
その場合は、弁護士に相談し専門的な見地で、それぞれの主張のもと立証を組み立てていく必要があるのです。
そのようなトラブルを防ぐために、一般消費者同士の契約では予め解約手付による解除期限を日付で決めるようになっています。
つまり「〇月〇日迄であれば手付解除ができます」と決めるのです。
ただし、手付解除期日を決めるときは、
売買契約締結から残代金決済日に至るまでの過程を十分に考えて、仲介業者のアドバイスの元、売主様と買主様の合意で決めなければなりません。
中には、不動産会社の担当者が勝手に決めてしまい、そのことで新たなトラブルが発生することもありますので注意してください。
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