「引渡し前の滅失・毀損」とは?不動産売買契約書
不動産(土地・建物・マンション)を売買する際の契約書には「引渡し前の滅失・毀損(全宅連)」「引渡し完了前の滅失・毀損等(FRK)」という条項があります。
そこで今日は、「引渡し前の滅失・毀損」「引渡し完了前の滅失・損傷等」について書いてみたいと思います。
契約書には、全宅連・FRK・全日・全住協、それぞれ独自のものがあり、書式や記載方法は微妙に異なっていますが、用語の意味や記入すべき内容は基本的に同じです。
このブログでは、全宅連とFRKの条項を参考に説明したいと思います。
筆、新築一戸建て購入応援「仲介手数料・無料・0円・ゼロ・サービス」の加古川の不動産売買専門会社、未来家(みらいえ)不動産株式会社、代表、清水 浩治
引渡し前の滅失・毀損の条項
【全宅の契約書】
第●条 引渡し前の滅失・毀損
1.本物件の引渡し前に、天災地変その他売主又は買主のいずれの責めにも帰すことのできない事由によって、本物件が滅失し売主がこれを引渡すことができなくなったときは、買主は売買代金の支払いを拒むことができ、売主又は買主はこの契約を解除することができる。
2.本物件の引渡し前に、前項の事由によって本物件が損傷したときは、売主は、本物件を修補して買主に引渡すものとする。この場合、売主の誠実な修復行為によって引渡しが標記の期日(C)を超えても、買主は、売主に対し、その引渡し延期について異議を述べることはできない。
3.売主は、前項の修補が著しく困難なとき、又は過大な費用を要するときは、この契約を解除することができるものとし、買主は、本物件の損傷により契約の目的が達せられないときは、この契約を解除することができる。
4.第1項又は前項によってこの契約が解除された場合、売主は、受領済の金員を無利息で遅滞なく買主に返還しなければならない。
【FRKの契約書】
第●条 引渡し完了前の滅失・損傷等
1.売主、買主は、本物件の引渡し完了前に天災地変、その他売主、買主いずれの責めにも帰すことができない事由により、本物件が滅失又は損傷して、修補が不能、または修補に過大な費用を要し、本契約の履行が不可能となったとき、互いに書面により通知して、本契約を解除することができます。また、買主は、本契約が解除されるまでの間、売買代金の支払いを拒むことができます。
2.本物件の引渡し完了前に、前項の事由によって本物件が損傷した場合であっても、修補することにより本契約の履行が可能であるときは、売主は、本物件を修補して買主に引渡します。
3.第1項の規定により本契約が解除されたとき、売主は、買主に対し、受領済みの金員を無利息にてすみやかに反感します。
引渡し前の滅失・毀損の条項の趣旨
引渡し前の滅失・毀損の条項の趣旨は、
引渡し前に、売主(債務者)と買主(債権者)のいずれの責任ではないこと、たとえば天災地変で、売買対象物が滅失、毀損したとき、その損害(危険)を誰が負担するかという「危険負担」に関する条項です。
危険負担には、
1.買主が、滅失・毀損があっても売買代金を全額支払うべきとする債権者主義
2.売主が、売買代金は請求できないとする債務者主義
この2つの考え方があります。
民法は、不動産のような「特定物」売買の場合、債権者主義を原則としています。
しかし、この原則は売主が、自己の占有下にある物件が滅失。毀損しても売買代金を全額請求できるという不公平さがあり、実際の売買(取引)では、ほとんど採用されていません。
誰が危険負担を負うことになるのでしょう
対象物件が毀損し、修復が可能なときは売主の負担で修復して引渡し本契約を続行することとしています。
逆に、毀損が甚大で修復するに多額の費用、多大の時間を要するときや、滅失によって、本物件の引渡しが確実に不可能になったときは、売主・買主に解除権を与えています。
その結果として売主は、受領済みの手付金、内金等を無利息で買主に返還し、買主は、自己登記名義、仮登記等があれば、その抹消登記手続きをすることの原状回復だけで済ませ、買主は代金支払債務を免れることになっています。
解除の手続きとして、互いに書面により通知して契約の解除ができるとして、書面による通知が明文化されています。
「滅失」と「毀損」の意味
「滅失」とは、文字通り物理的になくなってしまうこと、または効用を失ってしまうことを言います。
「毀損」は、物の一部の滅失を言います。
もっとも、滅失も毀損も程度の差でしかなく、その基準についても社会通念により判断する以外ないのが実情です。
また、毀損したとき修復可能かどうかは、
たとえば、修復に要する費用が、建物の評価額を上回るなど多額の費用を要する、あるいは、所有権移転および引渡し日までに修復できないなど、多大の費用や時間を要するかどうかを総合して判断することになるでしょう。
契約の続行と解除の選択
対象物件が滅失・毀損し、引渡しが不可能になったとしても本契約は自動的に解除にはなりません。
この条項では、本契約を続行するのか、あるいは、解除するのかは、売主・買主が選択できることとしてます。
これは、建物が滅失・毀損しても、土地だけで十分契約の目的が達せられることも少なくないことに配慮したものなのです。
売主も買主も契約を解除しなければ、契約は当然に続行され、売主は、引渡し期日に滅失・毀損した状態で対象物件を買主に引渡し、買主は、売買代金全額を売主に支払うことになります。
また、売買代金は、滅失・毀損した分について当然に減額することにはなっていませんが、売主と買主が合意すれば減額できることは言うまでもありません。
売主、あるいは、買主の責に帰すべき事由による滅失・毀損の場合
この条項は、天災地変その他売主・買主いずれの責にも帰すことのできない事由による滅失・毀損についての内容です。
言い換えると、売主または買主の責に帰すべき事由により減失・毀損した場合には、この条項は適用されない、ということです。
売主または買主の責に帰すべき事由があったときの考え方は、次のとおりです。
◆売主の責に帰すべき事由のとき
売主は、本物件を買主に引き渡すまで善良なる管理者の注意をもって管理する義務(善管注意義務・民法第400条)と、契約上、対象物件を引き渡す義務があります。
売主の責任によりその引渡しができなかったときは債務不履行により、別条項の契約違反による解除事由に該当します。
売主がその債務不履行の責任を免れようというのであれば、引渡日までに自己の費用で修理・修復する以外方法はありません。
◆買主の責に帰すべき事由のとき
民法第536条第2項がこのケースのことを規定しています。
債権者(買主)の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者(売主)は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
この規定によると、売主は対象物件を毀損・滅失した状態で引き渡すことで、その義務が履行されたことになり、一方、買主は売買代金全額の支払義務を拒むことができません。
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