賃貸物件の差押登記の調査を怠った媒介(仲介)業者に損害賠償を命じた紛争事例
今日ご紹介するのは、媒介業者が、賃貸物件の差押登記の調査を怠ったため、借主の損害賠償請求を認めた紛争事例です。
いろんな所に落とし穴がある裁判事例ですので、最後までお付き合いください。
紛争の内容(賃貸物件の差押登記の調査を怠った媒介(仲介)業者
①ラーメン屋を開業するため店舗を借りたいという借主Xが来店したため、媒介(仲介)業者Yは、元付業者Bから入手していたビルの賃借人募集の広告資料をXに見せ、ビルの1階の本件店舗を紹介し、元付業者Bに本件店舗の案内をさせた
② 借主Xが本件店舗を気に入ったため、媒介契約を締結の上、本件店舗の賃貸借契約を締結することになった
③契約の当日、本件店舗の貸主と名乗る男A(後に元付業者Bの従業員であったことが判明)が媒介(仲介)業者Yの事務所に訪れ、元付業者Bが急遽来られなくなった旨を述べ、媒介(仲介)業者Yに重要事項説明書や賃貸借契約書の作成を依頼
④媒介(仲介)業者Yは、元付業者Bにおいて必要な調査を行い重要事項説明書等を用意しているものと考えていたため、自ら本件店舗の権利関係等については一切調査をしなかった
しかし、媒介(仲介)業者Yは、貸主と名乗る男Aの言葉に従い、貸主Aが正当な権限を有する貸主であって、その権利には何らの制限もないものとして、本件店舗に関する重要事項説明書を作成し借主Xに交付した
重要事項の説明後、賃料月額7万円、敷金21万円、期間を2年とする本件賃貸借契約が締結された
⑤借主Xは、本件店舗の引渡しを受け、約500万円の内装工事費と、その他の費用をかけてラーメン屋を開業した
⑥ところが後日、以下の事実が判明した
◆本件賃貸借契約の締結に先立ち、根抵当権者Cの申立てにかかる競売開始決定による差押登記、債権者Dによる差押登記がなされていた
◆本件ビルについて貸主Aは賃借権設定仮登記を有していたが、この仮登記は上記競売の差押登記がなされた後になされたにすぎす、もともと貸主Aはその賃借権をもって、ビルの競売による買受人に対抗することはできなかった
◆さらに、貸主を名乗っていた男Aが、実は元付業者Bの従業員であり、勝手に賃借権設定仮登記権利者のAを名乗っていた
⑦結局、借主Xは、競売による買受人(競落人)の申立てにより、裁判所から本件店舗の引渡命令を受け、やむなく本店舗から退去し明け渡した
⑧このために借主Xは、上記各差押えがされている事実を知っていれば本件賃貸借契約を締結しなかったとして、媒介(仲介)業者Yに対し700万円余りを、媒介契約に基づく調査義務違反(債務不履行) による損害賠償として請求して提訴した
各当事者の言い分
<借主Xの言い分>
媒介(仲介)業者は、不動産の賃貸借契約を媒介するにあたり、目的不動産について、登記簿を閲覧する等して差押えの有無等を調査し、依頼者に説明する義務があるにもかかわらず、媒介(仲介)業者Yはこの義務を怠り、借主Xに損害を被らせた
<媒介(仲介)業者Yの言い分>
◆もともと元付業者Bにおいて、必要な調査を行った上で重要事項説明書等を用意することになっていた
ところが、契約当日に、貸主Aと名乗る元付業者Bの従業員より、媒介(仲介)業者Yにおいて関係書類を作成するよう言われたため、当該ビルの登記簿を調査して権利関係等を確認する間もないままに、重要事項説明書を作成し媒介せざるを得なかった
◆したがって、当該ビルについて差押登記がなされていることはまったく知らなかったし、上記のような状況に照らせば知らなかったことについて過失もない。
◆また、借主Xは、本件賃貸借契約に基づいて、当該店舗を約定の賃借期間である2年以上にわたって使用したのであるから、媒介(仲介)業者Yが債務不履行責任を負うべき理由はない
本紛争事例の問題点
借主側媒介業者が、依頼者である借主に対し不測の損害を被らせないよう重要事項の調査・確認をしていたか、
調査・確認できないことが判明した場合や不自然な点がある場合、どのような対処をすべきだったかが本紛争事例の問題点です。
具体的には、以下の点に過失があるかが問題となるでしょう。
①自分で謄本等を調査して賃貸に障害となる事由(差押えの事実)がないことを確認せず、重要事項説明書を作成して交付し、賃貸借契約を締結させたこと
②貸主Aの賃貸権限を調査・確認しなかったこと
③貸主Aと名乗る者とは面識もないのに、その本人確認をしなかったこと
本紛争事例の結末
裁判所は、媒介(仲介)業者Yに調査義務違反があったとして、借主Xの損害賠償請求を認めましたた。
その判決の要旨は以下の通りです。
①宅建業者が不動産の賃貸借の媒介をするに当たっては、善良なる管理者の注意をもって媒介を行って、賃貸借契約が支障なく履行され依頼者がその契約の目的を達し得るように配慮すべき義務を負うことは言うまでもない
②本件のように目的不動産について差押登記がなされているときには、当該賃借権が競売による買受人に対抗することができなくなって、賃借人が明渡しを余儀なくされることが容易に予想されるので、宅建業者は借主側の媒介業者であっても、貸主に確認するのはもとより、登記簿を閲覧する等して差押登記等の有無を確認し、賃借人に不測の損害を被らせないように配慮すべき義務がある
③本件では、契約の当日において元付業者Bの立会いが急遽不能となったため媒介(仲介)業者Yとは面識のない貸主が立ち会うという不自然な経過や、元付業者Bが作成した広告以外に権利関係を確認する資料がないこと等に照らすと、媒介(仲介)業者Yとしては契約の締結を後日に延期する等して慎重を期すべきであって、貸主Aを名乗る一見(いちげん)の男の言葉を安易に信用したことはいかにも軽率との非難を免れず、宅建業者としての義務を十分に尽くしたものとはいえない
④借主Xは、当初の賃借期間が経過した後も当然に賃貸借契約を更新して長期間にわたって本件店舗でラーメン店の経営ができるものと信じて、本件賃貸借契約を締結したものであって、 借主が差押えの事実を知っておれば本件賃貸借契約を締結しなかったであろうことは明らかである
⑤媒介(仲介)業者Yは、裁判所が認定した内装工事費・食器厨房用品購入費等の損害合計約552万円のうち、2年間営業ができた間の減価償却等を30 %減額し、借主Xの被った損害として約387万円と遅延損害金を賠償すべきである。
本紛争事例に学ぶこと<宅建業者の調査義務>
<宅建業者の調査義務>
借主側媒介業者や、買主側媒介業者は、重要事項の調査は通常元付業者の仕事だからとい う理由では、その責任を免れることはできません。
元付業者が調査すべきものであっても、借主側媒介業者 や主側媒介業者においても調査・確認しなければ、業者としての責任を問われることになるのです。
①業法上も宅建業者は、建物の賃貸借契約の媒介にあたり、各当事者に対して、「建物の上に存する登記された権利」として「差押」について重要事項説明を 行う義務を負う
②宅建業者は、重要事項説明の前提としての調査義務を負い、この義務は他の宅建業者が関与 している場合でも免除されることはなく、自ら必要な調査を行わなければならない
③調査義務の違反により、媒介契約の依頼者に損害を与えた場合には、媒介業者は、調査義務 の不履行に基づき損害賠償責任を負う
④媒介業者は調査や十分な確認ができないのであれば、契約締結日を後日に延期して調査をすべきである
⑤借主側媒介業者や買主側媒介業者も土地・建物の最新の建物全部事項証明書その他の客観的な資料を取得し、差押等の土地・建物に関する権利関係を確認し、客観的な根拠のない口頭説明だけを鵜呑みにしてはならない
⑥なお、本件では、貸主Aを名乗っていた男は、実は、元付業者Bの従業員であった
◆宅建業者は、契約者本人以外の者が契約者本人に成りすまして契約を締結する事態を避けるため、契約当事者と主張する者に対して、身分証等の提示を求めるなどして、契約者本人であることを確認する必要があるのです。
◆普通借家契約は、合意更新や法定更新で半永久的な借家の継続を保障されるのであるから、 借家の媒介をした業者は、借主が当初の契約期間(本件では2年)事実上使えたからといって、責任を免れることはできない。
本紛争事例に学ぶこと<差押えと賃貸借の優劣>
<差押えと賃貸借の優劣>
①なお、本件では、特に大きな争点になっていないが、競落人(買受人)より差押登記がなされた後に設定された賃借権(賃借権設定仮登記)は、差押えの処分禁止効(差押登記があれば売れない、貸せない)があるため、競売により落札した買受人に対抗できず、明渡しをせざるを得ないのです。
②差押登記の後に建物を借りた借家人は、単なる抵当権・根抵当権設定後(差押登記前)の借家人と比べ、まったく保護されないことを知っておかなければならないのです。
③媒介業者は、売買でも賃貸借でも当日謄本、或いは前日謄本を取得して新たに差押登記がないかどうか、 また登記中(事件中)の場合は、登記完了後の謄本(全部事項証明書)を取得し、その登記が取引に障害がないのか確認できるまで、取引を延期すべきなのです。
「友だち追加」で新築一戸建て(建売住宅)の仲介手数料無料診断が簡単にできます!
仲介手数料無料の新築一戸建て(建売住宅)をお探しなら
今まで「メールフォーム」でやり取りをしておりましたが、
未来家不動産(株)のLINE公式アカウントを「友だち追加」していただくと、仲介手数料が無料になるかの診断が、より簡単にできるようになりました。
上記のリンクバナーかQRコードで「友だち追加」をしていただき、SUUMO(スーモ)やHOME’S(ホームズ)、at home(アットホーム)などのポータルサイトで、
あなたが見つけた、気になる、あるいは、住みたい新築一戸建て(建売住宅)の「URL」あるいは「スクリーンショット」をトーク画面に貼り付けて「この物件の仲介手数料は無料になりますか?」と一言付け加えて送信してください。
未来家不動産株式会社の新築一戸建て購入応援「仲介手数料・無料・0円・ゼロ・サービス」をご利用いただける物件かをお調べして、ご報告いたします。
また、「新築一戸建て(建売住宅)を探し始める前の基礎知識」もご覧いただき、参考にしていただければ幸いです。
メールフォームはこちらです
LINEをご利用されていない方は、下記の「メールフォーム」をご利用ください。
関連した記事を読む
- 2024/03/28
- 2024/03/26
- 2024/03/25
- 2024/03/24