瑕疵担保責任から契約不適合責任に転換されて4年が経過しました
令和2年4月1日施行の改正民法は、債権法の分野を中心とした改正で、その中でも重要な改正点の一つが「瑕疵(かし)担保責任から契約不適合責任への転換」で、既に4年が経過しました。
改正前の民法では、売買の目的物が通常有すべき品質や性能を欠くことを「瑕疵」と呼んでいて、隠 れた瑕疵があった場合には売主が「瑕疵担保責任」として損害賠償や契約解除の責任を負うとされていました。
改正前民法下での伝統的な考え方では、不動産のような取替えのきかない「特定物」については、隠れた瑕疵があっても売主が修補等の追完を受ける余地はなく、目的物を現況で買主に引き渡せば、とりあえず債務の履行を完了したことになっていました。
ただ、それでは対価を支払う買主に不公平なため、法律が債務不履行責任とは別の「暇疵担保責任」という制度を設け、買主に損害賠償請求と契約解除の2つの救済手段のみを与えたのです。
しかし、売買契約を締結した当事者は当然、目的物に欠陥等がないものと想定していたはずで、上記の伝統的な考え方は当事者の意思や常識からかけ離れていると批判されてきたのも事実です。
重要な改正点の一つ「契約不適合責任」とは
そこで、令和2年4月1日施行の改正民法は、
売買の目的物が特定物か不特定物かを問わず、目的物を現況で引き渡すだけでは契約の履行は不完全であるとしました。
つまり、売主は「契約の内容に適合したもの」を引き渡す、という契約上の債務を負うという考え方を前提に、引き渡された目的物に欠陥等の契約不適合があれば、売主は完全な履行を行うこと等を含む債務不履行責任を負うという制度に改められたのです。
それが「契約不適合責任」なのです。
すなわち、売買において買主に引き渡された目的物が「種類、品質又は数量に関して契約の 内容に適合しないもの」であるときは、売主は契約上の債務として契約不適合のない目的物を引き渡す必要があるのです。
そのため、買主は売主に対し、①修補などの「追完請求」や、 ②「代金減額請求」ができるようになりました。
また、契約不適合のある目的物を引き渡しても債務の履行を果たしたことにならないので、債務不履行の一般原則により買主は、③「損害賠償請求」や④「契約解除」もできるのです。
瑕疵担保責任と契約不適合責任の比較
旧民法の「瑕疵担保責任」と改正民法の「契約不適合責任」を比較すると、次表のようになります。
項 目 | 瑕疵担保責任 | 契約不適合責任 | |
対象の契約 | 令和2年3月31日までに締結された契約 | 令和2年4月1日以降に締結された契約 | |
法的性質 | 法廷責任 | 契約責任(債務不履行責任) | |
目的物 | 特定物に限る | 特定物・不特定物を問わない | |
責任の対象 | 隠れた瑕疵 | 契約不適合(目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの) | |
買主の要件 | 善意・無過失 | 善意・無過失は要件ではない | |
売主の要件 | 無過失責任(帰責事由不要) | 損害賠償を除き帰責事由は不要 | |
責任の内容 買主の権利 | 追完(修補) | ✖ | 〇(売主の帰責事由不要) |
代金減額 | ✖ | 〇(売主の帰責事由不要) | |
損害賠償 | 〇(売主の帰責事由不要) | 〇(売主の帰責事由が必要) | |
契約解除 | 〇(売主の帰責事由不要) | 〇(売主の帰責事由不要) | |
損害賠償の範囲 | 信頼利益に限る | 履行利益に及び得る | |
解除の要件 | 契約の目的を達することができない場合 | 契約不適合が軽微でない場合 | |
買主の権利の期間制限 | 瑕疵を知った時から1年以内の権利行使 | 種類又は品質の契約不適合を知った時から1年以内の通知 |
「信頼利益」とは、
契約が不成立・無効になった場合に、それを有効であると信じたことによって被った損害です。
例えば、不動産の売買契約が成立するのを見越して、建築用の資材を購入した費用や、登記費用などの契約締結のための準備費用が「信頼利益」になります。
「履行利益」とは、
契約が履行されていれば債権者が得たであろう利益を失ったことでの損害です。
例えば、転売利益や営業利益などが「履行利益」に該当します。もちろん信頼利益も含みます。
売主が賠償しなければならない損害の範囲は、瑕疵担保責任と比較して格段に広くなったと言うことです。
契約不適合の概念
民法第483条【特定物の現状による引渡し】
債権の目的が特定物の引渡しである場合において、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべき時の品質を定めることができないときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。
つまり、
引き渡された目的物が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」であるかどうかは、売買契約の目的、経緯、書面の内容といった個々の契約の具体的諸事情と、取引上の社会通念に照らして決める必要がある、ということです。
残代金の支払期日までに目的物の損傷等が発生した場合で、売主は引渡しをするときの現状で目的物の引渡しをすれば足りる、ということにはならないのです。
改正前民法の「瑕疵」に該当するかの判断と改正民法で「契約不適合」に該当するかの判断
改正前民法の「瑕疵」に該当するかの判断は、判例では「契約当事者が予定していた品質や 性能」等も考慮しているので、「暇疵」と「契約不適合」は大きく異なるわけではありませんでした。
ただ、法文上「契約の内容に適合するか否か」の判断となることから、契約書の記載内容や当事者 の認識が、より重視される傾向が強まるとの指摘もあります。
なお、瑕疵担保責任では「隠れた瑕疵」であるためには、買主が暇疵について善意・無過失であることが適用要件とされていましたが、
「契約不適合責任」では、買主が欠陥を知っていたからと言って売主の担保責任を免責する必然性はないとして、買主の善意・無過失は要件ではなくなった。
買主が欠陥等を知っていたという事情は、契約内容としてどのような品質を予定していたかを確定するための重要な判断要素にはなりますが、それのみをもって売主が担保責任を回避できるとは言い切れなくなった、ということです。
ちなみに
「善意無過失」とは、「全く落ち度なく、ある事実を知らなかった」「十分注意をしていたが、ある事実を知ることができなかった」という意味です。
「心理的瑕疵」と「契約不適合責任」
「心理的瑕疵」は、不動産取引の中では、
①売主の担保責任
②売主や賃貸人、媒介(仲介)業者の説明義務
③目的物の保管に関する善管注意義務
という主に三つの場面で問題視されてきました。
改正民法において、これらの取扱いにどのような影響が及ぶのでしょうか?
①売主の担保責任
「心理的瑕疵」は、改正前民法でも売主の担保責任として「権利や目的物の瑕疵」と規定していました。
不動産取引では、目的物に関する権利や、物理的・客観的な性能等に問題 がない場合でも、買主や借主の物件選択の意思決定などに影響を及ぼす重大な事情、嫌悪すべき歴史的背景、つまり目的物件での過去の自殺や重大な事件事故の発生などを「心理的瑕疵」と称してきました。
その他、住環境などに関連するものを「環境瑕疵」という場合もあります。
民法改正後の「契約不適合責任」においては、「瑕疵」という概念が無くなり「契約の内容に適合するか否か」が基準となります。
つまり、過去の嫌悪すべき歴史的背景が「契約不適合」に該当するかは、基本的にはこれまでと同様の考え方に基づいて判断することになるでしょう。
また、契約目的や当事者の認識など、主観を含む事項が重視される傾向が強まれば、これまでにも、自殺や殺人など過去の嫌悪すべき歴史的背景の不存在が契約内容になっていたことを、売主の責任を認める上での要因としていた判例もあり(東京地裁・平成25.3.29判決)、このような傾向がさらに強まる可能性があるでしょう。
契約内容や目的が重視されることで、従来の「心理的瑕疵」に該当する事項を「契約不適合」と判定することが、より認められやすくなるのではないでしょうか。
②売主や賃貸人、媒介(仲介)業者の説明義務
実は、売主や賃貸人、媒介(仲介)業者の「心理的瑕疵」についての説明義務は民法上の明文は存在しないのです。
つまり、民法上では「心理的瑕疵」の説明義務の取扱いについて影響は受けないのです。
他方、宅地建物取引業法などでは、心理的瑕疵は、売主や貸主、媒介(仲介)業者に告知義務があるとされていて、物件広告において「告知事項あり」等の表示していますが、その事象の発生後いつまで説明すべきかなどの点には明確な基準が無いため、ある面では不動産流通の阻害要因にもなっているのです。
このような状況を踏まえ、
国土交通省は「心理的暇疵に係る適切な告知、取扱いに係るガイドラインの策定」に向けた検討会を開始し、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を公表していますので、参考にしてください。
③目的物の保管に関する善管注意義務
特定物を引き渡すべき債務者は「善良な管理者の注意」をもって物を保管しなければなりません(民法第400条)。
賃借人の自殺や孤独死など「心理的瑕疵」に該当する事象が賃貸物件で発生すると、目的物の汚損や、その後の契約に関する賃料の低下などが生じ、賃借人の善管注意義務の有無につて、賃貸人と相続人や連帯保証人との間で争いとなる場合があります。
判例では、
賃借人が自殺して賃貸物件を汚損したことは賃借人の善管注意義務違反に該当するとし、目的物の特殊清掃や内装工事費用、その後の契約の賃料減額分の一定範囲を損害として賃 借人の相続人に支払いを命じたものがあります。
他方で、
賃借人が病気で突然死して発見されるのが遅れたなどの事案では、病気で突然死したことについては原則として賃借人本人や親族等に責任はないとし、賃貸人から相続人への債務不履行・不法行為による損害賠償請求、原状回復請求を否定した判例や、
債務不履行等は否定しつつも原状回復請求を認容した判例などがあります。
今回の民法改正では、善管注意義務について実質的な見直しはなされていませんので、今後もこれまで通りの取扱いになります。
民法改正における「原状回復」
「善管注意義務」については今回の民法改正では見直しはなされませんでしたが、人が室内で死亡した後の特殊清掃や内装工事などは「原状回復」の間題とし て捉えられることがあります。
そこで、今回の民法改正で「原状回復」について条文が設けられており、賃借人負担が義務付けられる室内清掃や内装工事の範囲に関しては、この条文の解釈により決めていくことになるでしょう。
民法第621条(賃借人の原状回復義務)
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
日本では、高齢の単身者世帯が増加する傾向にあり、今後も賃借人の孤独死等が増加するものと見られています。
このような事態は、単に賃貸人と賃借人の契約上の間題として民法の改正等 により対応するだけでは足りず、
行政や社会全体による高齢者の見守り等の制度の確立や、賃貸人に発生した損害を補填するための保険制度の拡充などが必要になるのではないでしょうか。
「友だち追加」で新築一戸建て(建売住宅)の仲介手数料無料診断が簡単にできます!
仲介手数料無料の新築一戸建て(建売住宅)をお探しなら
今まで「メールフォーム」でやり取りをしておりましたが、
未来家不動産(株)のLINE公式アカウントを「友だち追加」していただくと、仲介手数料が無料になるかの診断が、より簡単にできるようになりました。
上記のリンクバナーかQRコードで「友だち追加」をしていただき、SUUMO(スーモ)やHOME’S(ホームズ)、at home(アットホーム)などのポータルサイトで、
あなたが見つけた、気になる、あるいは、住みたい新築一戸建て(建売住宅)の「URL」あるいは「スクリーンショット」をトーク画面に貼り付けて「この物件の仲介手数料は無料になりますか?」と一言付け加えて送信してください。
未来家不動産株式会社の新築一戸建て購入応援「仲介手数料・無料・0円・ゼロ・サービス」をご利用いただける物件かをお調べして、ご報告いたします。
また、「新築一戸建て(建売住宅)を探し始める前の基礎知識」もご覧いただき、参考にしていただければ幸いです。
メールフォームはこちらです
LINEをご利用されていない方は、下記の「メールフォーム」をご利用ください。
関連した記事を読む
- 2024/03/28
- 2024/03/26
- 2024/03/25
- 2024/03/24