不動産売買契約書の解説 第15条「手付解除」
第15条「手付解除」
売主は、買主に受領済の手付金の倍額を現実に提供して、又買主は、売主に支払済の手付金を放棄して、それぞれこの契約を解除することができる。
2.前項による解除は、下記の事項のいずれかが早く到来したとき以降はできないものとする。
① 相手方がこの契約の履行に着手したとき
② 標記の期限(E)を経過したとき
この条項は、売買契約における手付が、解約手付であることを定めた条項です。
「相手方が契約の履行に着手したとき」っていつ?
民法では、手付解除期日は、
「相手方が契約の履行に着手したとき」までと定めています。
この履行の着手は、裁判の判例では、
債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし、または、履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指す
と説明されています。
ただ、この説明では、
「この日が履行に着手した日です!」とは断定できないと思いませんか?
ましてや、契約解除となれば、売主様と買主様の相反する感情が爆発する場面ですので、トラブルに発展しかねなせん。
例えば、
売主様は、自宅が売却できたら、次の不動産を購入したい、買主様も自宅の売却契約が成立したので、この不動産を購入したい、などの買換えの場合、
長期間にわたり双方が、相手方からの一方的な手付解除の危険にさらされると、スムーズな取引を妨げる恐れもあります。
売主と買主の合意により「手付解除の期限」を決める
そのため、第2項では、
民法の手付解除期限「履行に着手するまで」に対する特約で、当事者の合意により「標記の期限(E)」として、手付解除の期限を明確に定めるものです。
ここで注意しなければならないのが、
残代金支払までの間に、中間金(内金)を支払うことになっている場合です。
手付解除期限を、中間金(内金)支払日以降に設定しては駄目ということです。
この第2項が、民法に対する特約とはいえ、買主の中間金支払いは、買主が「履行に着手した」という客観的な事実になり、無用なトラブルの原因になってしまうからです。
手付金の額が少額だと、中間金(内金)の支払いを強く求めたり、手付解除をさせてくないと考える業者が、中間金の支払よりも前に、早めの手付解除期日を設定している契約書を見たことがあります。
これは、要注意です!
手付解除期限の設定について
手付解除期限を設定するかどうかは任意ですので、設定しないことも可能です。
その場合は、民法で定められた「相手方がこの契約の履行に着手したとき」までが適用されることになります。
しかし「契約の履行に着手」という行為が具体的にどんな行動を指すのか判断が難しいので、実際の契約でもトラブルに発展することがあります。
手付解除期限の設定を忘れるとリスクが大きくになりますので注意してください。
手付解除期限の設定ができるのは、売主様が一般消費者の場合だけです。
ただし、手付解除期限の適切な設定が必要になります。
設定する期限は、契約案件ごとに異なりますが、
概ね、売買契約締結から1ヵ月、
契約から決済までの期間の中間、などを基本とし、
契約ごとに売主様と買主様で打ち合わせを行い決めていくことになります。
「融資利用の場合(住宅ローン特約)」と「手付解除期限」との関係
買主が住宅ローンを利用するときに設定する「融資利用の特約(住宅ローン特約)」は、
買主が利用する融資が審査の結果、金融機関に否認や減額になると売買契約が白紙解除になる、と言うものです。
白紙解除とは、「その契約の効力が最初から存在しなかった状態にすること」ですので、売主は受領している手付金を買主に返還し、仲介業者も手数料を全額返還しなければなりません。
融資利用の特約(住宅ローン特約)による契約解除期限は、買主が利用する金融機関によって異なるのですが、融資審査が2週間から3週間、場合によっては1ヵ月ほどかかることもありますので、その審査期間を考慮して決めていくことになります。
手付解除期限は、売買契約締結から1ヵ月、契約から決済までの期間の中間、などを基本とし、契約ごとに売主様と買主様との打合せで決める、と書きましたが、
手付金が少額の場合、簡単に契約解除されてしまうと仲介手数料が全額もらえない可能性がありますので、解除リスクを回避するために、手付解除期限を契約締結日から3日後に設定するなど、独断で早めに設定する不動産業者が少なくないのです。
これは、当事者の解約する権利を阻害する行為になります。
そして、2週間から1ヵ月後に設定される融資利用の特約(住宅ローンと客)による買主の解除の権利も阻害しています。
仲介手数料優先の考えを持つ不動産業者がいることを忘れないでください。
以下は、土地建物公簿取引用(売主一般消費者)の売買契約書の各条項の一覧です。
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土地建物公簿取引用(売主一般消費者用)の各条項
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