不動産売買契約書の解説 第20条「契約不適合責任」
第20条「契約不適合責任」
引渡された本物件が種類又は品質に関してこの契約の内容に適合しないものであるとき(以下「契約不適合」という。)は、買主は、売主に対し、本物件の修補を請求することができる。この場合、売主又は買主は、相手方に対し、修補の方法に関し協議の申し入れをすることができる。
2.引渡された本物件に契約不適合があるときは、その契約不適合がこの契約及び取引上の社会通念に照らして売主の責めに帰することができない事由によるものであるときを除き、買主は、売主に対し、修補に代え、又は修補とともに損害賠償を請求することができる。
3.引渡された本物件に契約不適合があるときは、買主は、売主に対し、相当の期間を定めて本物件の修補を催告したうえ、この契約を解除することができる。ただし、その契約不適合によりこの契約を締結した目的が達せられないときに限り解除できるものとする。
4.買主が前項に基づきこの契約を解除し、買主に損害がある場合には、その契約不適合がこの契約及び取引上の社会通念に照らして売主の責めに帰することができない事由によるものであるときを除き、買主は、売主に対し損害賠償を請求することができる。この場合、標記の違約金(F)の定めは適用されないものとする。
5.買主は、この契約を締結したときに本物件に契約不適合があることを知っていた場合、又は本物件の引渡し後標記(J)に定めた期間を経過するまでに売主に本物件に契約不適合がある旨を通知しなかった場合、売主に対して本条に定める権利を行使できないものとする。
契約不適合責任とは、「契約の内容に適合しない場合の売主の責任」の略です。
契約不適合責任は、「種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないものがあるとき」に売主が責任を負い、買主が保護されるという制度です。
簡単に言うと、契約内容と異なるものを売却したときは、売主が約束違反(債務不履行)の責任を負うということです。
第1項から第5項を分かりやすくまとめると
第1項
契約内容に適合しないものであるときは買主は売主に修補請求ができる
第2項
売主に落ち度や過失がある場合、買主は売主に損害賠償請求ができる(修補に代えて、または、修補とともに損害賠償請求ができる)
第3項
売主に修補請求しても応じない場合で、それにより契約の締結の目的が達成できない場合、買主契約解除ができる
第4項
契約の解除をしても損害がある場合で、売主に落ち度や過失がある場合、買主は売主に損害賠償請求ができる
第5項
買主が契約締結のときに契約不適合の事実を知っていたとき、または、経過期間が過ぎるまでに通知しなかった場合は、いずれの請求もできない
では、契約不適合責任について詳しく説明していきます。少し長くなりますが特に売主様には最後までお読みいただきたいと思います。
契約不適合責任とは?
例えば、買主が雨漏りしていることを知っていて、契約内容に「この建物は雨漏りしています」という内容を明記していれば、売主は「契約不適合責任」は負うことはありません。
しかし、買主が雨漏りのことを知っていても、雨漏りのことを明記していない、あるいは雨漏りがないことが前提での契約書では、契約内容と異なるものを売ったことになり、売主は「契約不適合責任」を負うことになるのです。
旧民法の「瑕疵担保責任」では、買主が責任を追及できる瑕疵は「隠れた瑕疵」でした。「隠れた瑕疵」とは、買主が通常の注意を払ったにも関わらず発見できなかった傷です。
ただ、実際には瑕疵担保責任を裁判で争っても「隠れていたかどうか」を立証するのは難しいという問題がありました。
改正民法の契約不適合責任では、「隠れていたかどうか」は問われません。争点になるのは契約書に「明記せれているかどうか」が問題になるのです。
分かりづらかった「瑕疵担保責任」よりも「契約不適合責任」は単純明確で、契約内容と異なるものを売却したときは、売主に責任を負ってもらう、と言う「約束違反(債務不履行)」に原因を位置付けたのです。
契約不適合責任で買主が請求できる5つの権利
売主が契約内容と異なるものを売却したときに、「契約不適合責任」で買主が請求できる権利は以下の5つです
◆追完請求
◆代金減額請求
◆催告解除
◆無催告解除
◆損害賠償請求
◆追完請求
契約不適合責任では、買主は新たに「追完請求」ができるようになりました。
「追完請求」は契約不適合責任で一番重要な請求権で、改めて完全な給付を請求することを意味しています。
種類や品質または数量が契約内容と異なっていれば、追完請求により「完全なものを求めることができる」と言うことです。
例えば、10個の注文をしたのに、9個しか納品されていなかった場合、追完請求によってあと1個を要求できるという権利です。
しかし、不動産は、唯一無二の特定物ですので、工業製品のように「あと1つを追加」と言うように個数では調整ができません。
そのため、不動産に認められた「追完請求」は「修補請求(直してくださいという請求)」ということになります。
雨漏りしているのに雨漏りしていないという契約内容で売却した場合、買主は売主に対して「雨漏りを直してください」と請求ができるのです。
「直してください」という追完請求は、当たり前の請求だと思いますが、旧民法の瑕疵担保責任では、直してくださいと言う請求ができませんでした。
瑕疵担保責任では、まず「雨漏りを事前に知っていたのか、知らなかったのか」という点が争点となり修繕の要求ができませんでした。
契約不適合責任で追完請求権が認められたことで、買主は売主に対してストレートに修補請求ができるのです。
もう一つ重要なことがあります。
それは、売主に特段の落ち度がなかったとしても、契約内容と異なるものを売ってしまうと追完請求を受けることになる、と言うことです。
「追完請求」には「売主の責めに帰すべき事由」は必要ないのです。
もしかすると、売主様のなかには「家を完璧に修繕しないと売却できないのでは?」と誤解する人もいるかもしれませんが、それは違います。
「追完請求」は、あくまでも契約内容と異なる場合に契約内容通りに直すということで、雨漏りがあったとしても、それを契約内容に明記し、買主が了解していれば修繕しなくても良いのです。
追完請求で売主様に理解して欲しいことは
◆完璧な状態で売る必要はありません
◆物件の状況を契約書に明記することが重要
◆「売主の責めに帰すべき事由」は不要
◆代金減額請求
契約不適合責任では、買主は「代金減額請求権」ができるようになりました。ただし、「代金減額請求」は追完請求の二次的な請求権になります。
改正民法が認めた代金減額請求権は、追完請求で修補請求をしても売主が修補してくれないとき、あるいは修補ができないときについて認められる権利です。
あくまでも追完請求がメインで、それが駄目な場合には代金減額請求ができることになるのです。
旧民法の瑕疵担保責任には、追完請求も代金減額請求もありませんでしたが、買主に新たな2つの請求権が加わったことで、売主の責任は格段に重くなったと言えます。
代金減額請求は、まず「買主が相当の期間を定めて追完請求の履行を催告をし、その期間内に追完の履行がないとき」に認められます。
直せるものであれば、まずは追完請求の催告を行い、それでも直してもらえないときにはじめて「できないのであれば代金を減額してください」と言えるのです。
ただし、直せないことが明らかなときは直ちに代金の減額請求ができることが規定されています。
代金減額請求権は「直せるものは催告が必要」「直せないもの等は催告が不要」という2段構えの請求権と言うことです。
ベースとなる追完請求が売主の責めに帰すべき事由は不要ですので、その代替となる代金減額請求も売主に落ち度がなかったとしても認められることになります。
代金減額請求で売主様に理解して欲しいことは
◆売主に責めに帰すべき事由は不要
◆追完請求の二次的請求権
◆2段構えの請求権
◆催告解除
契約不適合責任では、買主に「催告解除」を認めています。
「催告解除」は、「追完請求」や「代金減額請求」をしたにも関わらず、売主がそれに応じない場合に買主が催告して契約を解除できる権利です。
売主が「追完請求」に応じない場合で、買主が「代金減額請求」でも納得できない場合に「やっぱり購入を止めます」と言えるのが「催告解除」です。
つまり、売主が「追完請求」に応じない場合、買主は「代金減額請求」と「催告解除」の2つの選択肢を持っていることになります。
契約解除されてしまうと、契約はなかったものとなるため、売主は売買代金の全額返還が必要になります。
売主が「追完請求」に応じない場合は「代金減額請求」では済まされず、契約解除もあり得るため、買主の追完請求はとても強い権利といえるのです。
ただし、売主の債務不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときはできないこととなっています。
また、催告解除についても、売主の責めに帰すべき事由は不要です。
催告解除で売主様に理解して欲しいことは
◆売主に責めに帰すべき事由は不要
◆追完請求に応じない場合、代金減額請求か催告解除の2択
◆売買代金全額返還
◆売主の債務不履行が契約及び社会通念に照らして軽微であるときはできない
◆無催告解除
契約不適合責任では、買主に「無催告解除」を認められています。
旧民法の瑕疵担保責任でも、契約の目的を達しないときは契約を解除できるという規定がありましが、「無催告解除」は、その権利を引き継いだものと言えます。
「無催告解除」は、契約不適合により「契約の目的を達しないとき」に限り行うことができます。
ただし、若干の不適合程度で契約の目的が達成できる場合には「無催告解除」は認められない、と言うことです。
◆損害賠償請求
契約不適合責任では、買主に「損害賠償請求」の権利を認めています。
旧民法でも買主は損害賠償請求ができましたが、瑕疵担保責任による損害賠償請求は、売主の無過失責任(故意、過失がなくても責任を負う)でした。
しかし「契約不適合責任」では帰責事由が必要になります。帰責事由とは「責められるべき理由や落ち度、過失」のことです。
つまり、契約不適合責任では、売主に帰責事由がない限り、損害賠償は請求されないことになります。
また、瑕疵担保責任の損害賠償請求の範囲は「信頼利益」に限られましたが、契約不適合責任での範囲は「履行利益」も含まれます。
ここは重要ですので、よく理解して欲しいと思います。
「信頼利益」とは、契約が不成立・無効になった場合に、それを有効であると信じたことによって被った損害です。例えば、不動産の売買契約が成立するのを見越して、建築用の資材を購入した費用や、登記費用などの契約締結のための準備費用が信頼利益となります。
「履行利益」とは、契約が履行されていれば債権者が得たであろう利益を失ったことでの損害です。例えば、転売利益や営業利益などが履行利益に該当します。もちろん信頼利益も含みます。
売主が賠償しなければならない損害の範囲は、瑕疵担保責任と比較して格段に広くなったと言うことです。
損害賠償請求売主様に理解して欲しいことは
◆損害賠償の範囲が大きくなった
◆履行利益は信頼利益よりも大きな範囲になる
◆信頼利益と履行利益の両方を賠償する
◆売主に帰責事由がない限り損害賠償は請求されない
注意して欲しいこと
契約不適合責任では、買主が「追完請求」「代金減額請求」「催告解除」「無催告解除」「損害賠償請求」の5つを請求できるようになり、売主の責任は一層重くなりました。
契約不適合責任で売主様が不要な責任を負わないためには、契約書に売却物件の内容が「明記されているかどうか」が非常に重要になります。
民法改正後の不動産売買でも、売却活動を始める前に売却する不動産の状況をしっかりと把握し、物件状況確認書に明記することが必要になってくるのです。
これから不動産の売却をお考えの売主様は、まずは、改正民法の「契約不適合責任」の内容をよく理解している不動産会社に依頼し、あなたに適したアドバイスを受けることが重要になるでしょう。
以下は、土地建物公簿取引用(売主一般消費者)の売買契約書の各条項の一覧です。
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土地建物公簿取引用(売主一般消費者用)の各条項
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