不動産売買契約書の解説 第3条「手付」(手付金)
第3条「手付(手付金)」
1.買主は、売主に手付として、この契約締結と同時に標記の金額(B2)を支払う。
2.手付金は、残代金支払いのときに、売買代金の一部に無利息で充当する。
この条項「手付」は、手付金の支払いに関する内容です。
ここで注意して欲しいことは、
売買契約時に支払う手付金は売買代金の一部ではない、ということです。
手付金は売買代金の一部ではありません
不動産売買の流れは通常、
買主から売主に、手付金、中間金、残代金、と順次金銭が支払われていきます。
このうち、中間金、残代金は、法律的にも売買代金の支払いにあたります。
一方、手付金は、手付契約に基づいて支払われた金銭であって、「契約締結時では、手付金は売買代金の一部ではない」と言うことです。
第2項で、手付金を「残代金支払いのときに、売買代金の一部に無利息で充当する」としています。
手付金は、売買契約時に買主から売主へ支払われますが、その時点では売買代金の一部ではない、ということをわざわざ説明しているのです。
それは、後で説明する第15条(手付解除)で明らかになります。
ただし、滞りなく残代金支払日を迎えることができた段階では売買代金の一部に含まれ、つまり、最終の段階で初めて売買代金の一部になるのです。
手付金の意味
手付金の交付には、一般に、
①証約手付
②解約手付
③違約手付
④損害賠償の予定
という意味があります。
それぞれの契約において、
上記4つのうち、いくつかの意味が含まれているのですが、最低限「証約手付」の性質を含んでいます。
また、民法では、「解約手付を原則」とする旨が定められています。
この売買契約書第15条(手付解除)では、買主から売主に交付される手付について、「解約手付」とすることが明示されていますので、そこで詳しくご説明します。
手付の4つの意味
①証約手付
「契約の成立を証明するための証拠」という趣旨で交付される手付のことです。
②解約手付
当事者(売主様、買主様)が、相手方が契約の履行に着手するまで、或いは、当事者で設定した日までは、解除権を持っています。
そして、解除したいときは、買主は手付の放棄、売主は手付倍返しすることで清算するという趣旨で交付される手付のことです。
本来、当事者は、相手方に債務不履行がなければ、契約を解除できないのが原則ですが、解約手付の場合は、この事実がなくても、契約解除ができるのです。
つまり、解約理由も問わず、解約の相手方は、その解除理由の内容に対して拒否することもできない、ということです。
また、債務不履行による解除ではないので、損害賠償の問題は発生しません。
③違約手付
当事者に債務不履行があったとき、違約罰として、損害賠償とは別に、当然に没収できる、または、倍額を支払う趣旨で交付される手付のことです。
④損害賠償の予定
債務不履行があったとき、予定された損害賠償として、没収、または、倍額を支払う趣旨で交付される手付で、交付される損害賠償の予定を兼ねる手付。
③と違うのは、④では損害賠償が手付金の額に制限されるので、実損害が手付額を上回っていても請求できない、ということです。
手付金の額(低額に設定するのは避けましょう)
実は、手付金の額に制限は定められていないのです。
売主が宅建業者の場合には、売買代金の20%以下という、宅建業法による制限が有りますが、一般消費者同士の契約では、その制限は設けられていないのです。
裁判例のなかにも、売買代金に比較して手付金額が極めて小さい金額でも、解約手付として認めた判例があります。
その内容は、売買代金900円の売買契約で、6円の手付が解約手付として認められています。(大審院:大正10年6月21日判決)
例えば、1億円の物件に対して1万円の手付で売買契約を締結したとします。
このように、手付金が低額だと、売主は、手付倍返しで契約を解除して、より高額で買ってくれる第三者に売却することが簡単にできてしまいます。
また、買主も、残代金が支払えないと判断したときは、高額違約金を取られるよりはましだと考えて、低額の手付を放棄して契約を解除しやすくなります。
上記のように、手付を低額にしてしまうと、売買契約の効力を弱める結果になってしまいますので、低額にしすぎることは、避けた方が良いと思います。
もちろん、手付解除の内容を理解したうえで、売主様と買主様の間で合意したのであれば問題ありません。
申込証拠金と手付金は違うものです
買付証明書(購入の意思表示をする書面)を提出するときに、申込証拠金を請求する不動産屋業者がいます。
申込証拠金は、買主の購入の意志を確認し、その証拠として、売主に預託される金銭のことで、その時点では売買契約は成立していません。
その後、商談を重ね、売買契約が成立したときは手付金の一部に充当されますが、不成立のときは、その時点で返済されるという、単なる預り金で、手付金の性格を持つものではありませんので注意してください。
以下は、土地建物公簿取引用(売主一般消費者)の売買契約書の各条項の一覧です。
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土地建物公簿取引用(売主一般消費者用)の各条項
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